建設業界では、働き方改革やDXの推進が求められていますが、その実現には多くの課題が伴います。
特に、中小企業や小規模事業者にとっては、ITツールの導入費用が大きなハードルとなっています。
そのような中、IT導入補助金は、企業がITツールを導入する際の経費を大幅に軽減し、業務効率化や生産性向上をサポートする重要な制度です。
本記事では、2024年度版IT導入補助金の概要や建設業界での具体的な活用事例、補助金を利用するメリットについて解説します。
目次
2024年度版IT導入補助金の概要
2024年度版のIT導入補助金の概要について、見ていきましょう。
IT導入補助金とは
IT導入補助金は、中小企業や小規模事業者の労働生産性向上を目的として、業務効率化やDXを支援する補助金です。
この制度は、企業が必要とするITツールの導入費用の一部を補助して、企業の負担を軽減し、効率的な業務運営を支援します。
建設業界の対象ツールの例としては「積算システム」や「勤怠・労務管理ソフト」などが挙げられるでしょう。
これらのツールは、労働時間の管理や積算精度の向上に役立ち、業務効率化を実現します。
【参考】IT導入補助金2024
対象となる建設会社
IT導入補助金の対象は中小企業・小規模事業者であり、建設業界では、以下の条件を満たす会社や個人事業主が該当します。
- 資本金3億円以下、または従業員数300人以下
この条件を満たしていない場合は補助金の対象外となるため、事前に自社状況の確認が重要です。
申請から補助金を受け取るまでの流れ
IT導入補助金の申請から補助金を受け取るまでの流れは、以下のステップに沿って進めます。
IT導入補助金の公式サイトや公募要領を確認し、補助事業について理解します。
公募要領には、補助対象となるITツールや申請方法、必要な書類などが詳しく記載されています。
申請には「gBizIDプライム」アカウントが必要です。
gBizIDプライムは、IDとパスワードで構成されるアカウントで、取得には約2週間かかるため、早めに手続きを行いましょう。
「みらデジ」ポータルサイトに登録し、経営課題の把握とデジタル化の進捗状況を確認するための「みらデジ経営チェック」を実施します。
このチェックは、企業の現状を把握し、適切なITツールの導入に役立ちます。
自社の業種や事業規模、経営課題に合わせて、IT導入支援事業者と導入するITツールを選定します。
IT導入支援事業者は、ITツールの導入や申請手続きをサポートします。
IT導入支援事業者と共同で交付申請書を作成し、事務局に提出します。
申請には、事業計画書や証憑書類の準備が必要です。申請が完了すると、事務局で審査が行われ、交付決定が通知されます。
交付決定後に、ITツールの発注や契約、支払いを行います。
交付決定前にこれらの手続きを行うと、補助金が受け取れないため注意が必要です。
補助事業が完了したら、ITツールの発注や契約、納品、支払いを証明する事業実績報告を事務局に提出します。
事業実績報告は、企業が補助金を受け取るために必要な手続きです。
事業実績報告が受理されると、補助金額が確定し、企業の口座に補助金が振り込まれます。
補助金を受け取ったあと、企業は事業実施効果報告を提出します。
ITツールの導入効果や事業の進捗状況について、定められた期限内に提出する必要があります。
IT導入補助金の採択率を上げるには
IT導入補助金の採択率を上げるためには、以下のポイントを意識しましょう。
インボイス制度への対応
インボイス制度へスムーズに事業者が対応できるように、2024年のIT導入補助金にはインボイス枠が新設されました。
会計ソフトや受発注ソフトの導入にインボイス枠が利用出来るため、ぜひ活用すると良いでしょう。
補助金の必要性をわかりやすく記載
IT導入補助金の申請書に「自社が抱えている課題とITツールによって改善される見込み、その結果」について詳細に記載しましょう。
課題について書くと採択されないと思う事業者もいると思いますが、かえって好印象になるかもしれません。
建設業はDXが遅れていると懸念されている業界のため、ITツールの導入に積極的な姿勢はむしろ評価されるはずです。
売上高と申請金額のバランス
IT導入補助金で採択されない一番の理由は、計画立案が現実的でないためです。
計画立案を現実的なものと納得してもらうには、売上高と申請金額のバランスを考えましょう。
売上高に対して申請額があまりに大きい場合、設備面へ過剰な投資をしていると取られかねません。
申請額は売上高の数分の一程度を適正値として、申請書を出しましょう。
加点項目の取得
IT導入補助金の加点項目を理解すれば、IT導入補助金が採択される可能性をあげられます。
IT導入補助金2024では、以下のような項目が加点項目です。
- 地域未来投資促進法の地域経済牽引事業計画
- 地域未来牽引企業
- クラウドを利用したITツールの導入
- インボイス対応ITツールの導入
- 賃上げの事業計画の策定や従業員の表明、事業計画の達成
- SECURITY ACTIONの「★★ 二つ星」の宣言を行っていること
- 「みらデジ経営チェック」を実施していること
- くるみん・えるぼし認定
補助金枠によって加点項目が異なる場合があるため、詳細はリストで確認しましょう。
建設業で利用できるIT導入補助枠
2024年度のIT導入補助金で建設業者が利用出来る補助金枠を1つずつ解説します。
通常枠
通常枠とは、事業者の課題にあったITツールの導入をする事業者に対しての補助金枠です。
補助率 | 補助額 |
---|---|
1/2以内 | 1プロセス以上:5万円以上150万円未満 4プロセス以上:150万円以上450万円以下 |
対象のITツール要件 | 以下から1種類以上の業務プロセスを保有するソフトウェアの申請が必要 顧客対応・販売支援 決済・債権債務・資金回収管理 供給・在庫・物流 会計・財務・経営 総務・人事・給与・労務・教育訓練・法務・情報システム その他業務固有のプロセス |
補助対象 | 【ソフトウェア(必須)】 ・ソフトウェア購入費 ・クラウド利用料最大2年分 【オプション】 ・機能拡張 ・データ連携ツール ・セキュリティ 【役務】 ・導入コンサルティング ・導入設定/マニュアル作成/導入研修 ・保守サポート |
交付申請期間 | 2024年2月16日〜8月23日 17:00 |
インボイス枠(インボイス対応類型)
インボイス枠とは、中小企業がインボイス制度に対応するために導入する会計ソフトや受発注ソフトの経費の一部を補助する枠です。
インボイス制度に対応した会計・受発注・決済ソフト | |
---|---|
補助率 | 補助額 |
3/4(中小企業)4/5(小規模事業者) | 50万円以下 |
2/3以内 | 50万円以上〜350万円以下 |
交付申請期間 | 2024年2月16日〜8月23日 17:00 |
PC・ハードウェア等 | ||
---|---|---|
補助対象 | 補助率 | 補助額 |
PC・タブレット等 | 1/2以内 | 10万円以下 |
レジ・券売機等 | 1/2以内 | 20万円以下 |
交付申請期間 | 2024年2月16日〜8月23日 17:00 |
インボイス枠(電子取引類型)
インボイス枠(電子取引類型)はインボイス制度に対応したITツールを導入する場合の補助金枠で、中小・小規模事業者との取引時に電子取引のためのアカウントを発行し、無償で使用させる場合に限って補助金を利用できます。
対象企業 | 補助率 | 補助額 |
---|---|---|
中小企業小規模事業者等 | 2/3 | 下限なし〜350万円 |
その他の事業者 | 1/2 | |
補助対象 | ー | ・インボイス制度に対応した受発注機能を有する受発注ソフト ・取引関係のある事業者に対して、アカウントを無償発行して使用させることができるクラウド型のソフトウェアに限る ・クラウド利用料は2年分まで |
交付申請期間 | ー | 2024年2月16日〜8月23日 17:00 |
セキュリティ対策推進枠
セキュリティ対策推進枠は、サイバー攻撃の脅威に対応するため「サイバーセキュリティお助け隊サービスリスト」に掲載されているサービスを利用する際に、その利用料金を2年分補助する枠です。
補助率 | 補助額 |
---|---|
1/2 | 5万円以上100万円以下 |
補助対象 | ITツールの導入費用及びサービス(最大2年分) ※サイバーセキュリティお助け隊サービスリストから選択 |
交付申請期間 | 2024年2月16日〜8月23日 17:00 |
複数社連携IT導入枠
複数社連携IT導入枠とは、業務上でつながりがあるサプライチェーン、または商業集積地(特定の商圏で事業を営む)ITツールやハードウェアを導入する際に利用出来る補助金枠です。
建設業者で協同組合などを運営している場合は、当該補助金の対象となります。
補助対象経費 | 補助率 | 補助額 | 補助額上限 | ||
---|---|---|---|---|---|
基盤導入経費 | ソフトウェア | ー | 3/4以内4/5以内 | 50万円以下×グループ構成員数 | 3,000万円以下 |
基盤導入経費 | ソフトウェア | ー | 2/3以内 | 50万円超〜350万円以下×グループ構成員数 | 3,000万円以下 |
基盤導入経費 | ハードウェア | PC/タブレット等 | 1/2以内 | 10万円×グループ構成員数 | 3,000万円以下 |
基盤導入経費 | ハードウェア | レジ・券売機等 | 20万円×グループ構成員数 | 3,000万円以下 | |
消費動向等分析経費 | ー | ー | 2/3以内 | 50万円以下×グループ構成員数 | 3,000万円以下 |
その他経費 | ー | ー | 2/3 | 200万円以下 | 3,000万円以下 |
交付申請期間 | 2024年2月16日〜8月23日 17:00 | 3,000万円以下 |
建設業がIT導入補助金で導入可能なITツール
建設業に役立つ主要なITツールについて紹介します。
CADシステム
CADシステムは、設計図面をコンピューター上で作成・管理するためのツールです。
従来の手書き図面作成に比べて、デジタル化により修正や変更が容易になり、作業効率が大幅に向上します。
最新の3D建築CADシステムは、間取りや屋根などの基本データをもとに、日当たりや風向きの環境シミュレーションも行えるため、設計の精度が高まります。
図面管理システム
図面管理システムは、設計図面や関連書類を一元管理するためのツールです。
従来の紙媒体での管理に比べて、デジタル化によるペーパーレス化を推進し、スペースやコストの削減が期待できます。
また、設計情報を簡単に共有できるため、チーム間のコミュニケーションが円滑となります。
ドローン測量システム
ドローン測量システムは、ドローンを使用して空中から測量を行うためのツールです。
写真測量やレーザー測量、グリーンレーザー測量などの方法があり、地形の正確なデータを短時間で取得できます。
地上測量に比べて、測量作業の時間と労力を大幅に削減でき、建設プロジェクトの進行がスムーズとなります。
積算ソフト・見積ソフト
積算ソフトや見積ソフトは、建設業において必要な見積りや原価管理を効率的に行うためのツールです。
これらのソフトの使用により複雑な計算作業を自動化し、人的ミスを防止できます。
過去データを分析する機能も備えており、新しい案件の受注時に過去情報の活用によって、生産性の向上が期待できます。
会計ソフト
会計ソフトは、経理業務を効率化するためのツールです。
手作業や紙での管理に比べて、デジタル化によって帳簿やレポートの自動作成が可能となります。
経理担当者の負担が軽減されるだけでなく、専門知識がなくても使用できるため、小規模事業者にも適しています。
勤怠・労務管理ソフト
勤怠・労務管理ソフトは、従業員のシフトやスケジュール、休暇管理を効率的に行うためのツールです。
現場作業員の出退勤を簡単に管理でき、正確な労働時間の把握が可能となります。
また、スマホからも利用できるため、現場での打刻がスムーズに行えます。
建設業におけるIT導入補助金の活用事例
IT導入補助金を活用して成功した建設業の事例を3つ紹介します。
活用事例1:積算ソフト導入
IT導入補助金2021から、積算ソフトの導入で公共工事の入札率の増加を達成した事例を紹介します。
- 公共工事の入札に参加するも、10年間での落札は1件のみ
- 積算精度に課題を抱え、1年に数回しか入札に参加できない
- 入札件数が大幅に増加し、3か月間で5件の入札に参加
- 公共工事に対するスタッフの意識が向上
活用事例2:勤怠・労務管理ソフト導入
IT導入補助金2020から勤怠・労務管理ソフトの導入により、社員の移動時間を削減し、業務効率を向上させた事例を紹介します。
- 社員がタイムカードを打刻するためだけに、本社への出勤・帰社が常態化
- 往復の移動時間が残業時間扱いとなり、従業員の負担も大きい
- 社員が現場から直接スマホで打刻可能になり、移動時間を削減
- 残業時間は3分の1に減少し、勤怠管理業務の作業効率が大幅に向上
活用事例3:会計ソフト導入
IT導入補助金2020から、会計ソフトの導入により、会計作業の効率をアップさせ、年間120万円ものコスト削減に成功した事例を紹介します。
- 会計システムとエクセルシートが混在しており、二度手間や誤作業が頻発
- 取引単価の情報共有ができておらず、取引単価の平準化や利益率の向上が課題
- 見積りや実行予算に関するシステムが一元化でき、作業の二度手間が解消
- 年間120万円のコスト削減を実現し、利益率が0.17%増加
建設業がIT導入補助金を利用するメリット
IT導入補助金の利用により、建設業においては大きなメリットが得られます。
自己負担の軽減
IT導入補助金の最大のメリットは、自己負担を大幅に軽減できる点です。
中小企業や小規模事業者が、生産性向上や業務効率化を目的としてITツールを導入する際、補助金がその経費の一部をカバーします。
例えば、通常枠では最大で1/2の補助率が適用されるため、導入費用の半分を補助金で賄えられ、企業の資金負担を大幅に削減できます。
業務効率化の促進
IT導入補助金を活用するもうひとつの大きなメリットは、業務効率化の促進です。
ITツールの導入によって、従来の手作業やアナログな業務をデジタル化し、効率化が図れます。
残業時間の減少や有給消化率の上昇など、社員の働き方改革が進み、生産性の向上に寄与します。
IT導入補助金2024についてのよくある質問
IT導入補助金2024について、よくある質問を紹介します。
まとめ
IT導入補助金は、中小企業や小規模事業者が業務効率化や生産性向上を実現するために欠かせない制度です。
特に建設業界では、積算システムや勤怠管理ソフト、原価管理システムなど、さまざまなITツールの導入が大きな効果をもたらしています。
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