建設業では、見積書に法定福利費の内訳を明示することが推進されています。
しかし、明示が必要な理由や計算方法・記載方法が分からないという方もいらっしゃるのではないでしょうか。
今回は法定福利費について、見積書への明示が必要な背景や作り方を中心に、従来の見積書との違いや法的な位置づけについても解説します。
目次
法定福利費とは
法定福利費とは、社会保険料のうち法令に基づいて事業主が負担しなければならないものであり、以下の5つが該当します。
- 健康保険料
- 介護保険料
- 厚生年金保険
- 雇用保険料
- 労災保険料
上記のうち、内訳の明示が必要なものは以下の通りです。
- 厚生年金保険料(児童手当拠出金含む)
- 介護保険料(40歳から65歳未満)
- 健康保険料
- 雇用保険料
見積書には、これらのうち事業者負担分を明示しなければなりませんが、事業者の判断によりそれ以外の内訳を明示しても問題ありません。
2024年の建設業の法定福利費は約16%
法定福利費は毎年変動するため、一定ではありません。
しかし、おおよそ15〜16%前後で推移しています。
2024年度の建設業における法定福利費の税率(事業主負担分のみ)を東京都をモデルに紹介します。
健康保険料 | 4.99% |
介護保険料 | 0.8% |
厚生年金保険料 | 9.15% |
雇用保険料 | 0.95% |
労災保険 | 0.302% |
子ども・子育て拠出金 | 0.36% |
合計 | 16.552% |
各種保険料の税率を計算すると、2024年度の法定福利費は16.552%です。
つまり、従業員の給与合計の約16%を事業主は法定福利費として収める必要があります。
諸経費との違い
法定福利費は名前のとおり「法律で定められた社会保険料」です。
工事見積書の諸経費とは、工事に直接関係しないものの、工事を完了させるために必要な費用の総称です。
つまり、事務所において使う筆記用具、光熱費などは工事に関係はありませんが、これらの費用がなければ工事が完了しないとして『諸経費』と呼ばれます。
法定福利費は確かに、工事現場で直接工事に関係する費用ではないため、諸経費に含めたいと思う方もいるでしょう。
しかし、法定福利費は諸経費とは分けて記載しなければなりません。
その理由を次の項目から解説します。
建設業において見積書への法定福利費の記載は義務
法定福利費の見積書への記載は義務付けられています。
建設業界では社会保険等に加入していない事業者も多く、これは国としても看過できない問題とされています。
そこで、2013年より見積書へ法定福利費を記載することが義務とされました。
法定福利費の記載義務を設けることで、下請業者が万が一社会保険に入っていない場合に、発注者が契約しないという選択ができます。
建設業界の健全化のために、法定福利費を支払っていない不適正業者との契約は控えるように国も推奨している状況です。
また、当然ながら発注者側から法定福利費について値引きを求めることは認められていません。
見積書の法定福利費内訳明示とは
建設業における見積書への法定福利費内訳明示について理解するため、まずは以下の項目について確認しましょう。
法定福利費内訳明示の背景
法定福利費の明示が推進されるようになった背景としては、建設業における社会保険の未加入対策があげられます。
建設業においては、社会保険や労働保険へ未加入のまま事業を継続している事業者が多いといわれているのが現状です。
こうした状況が続いてしまうと法令を順守した事業者が競争で勝ち残ることが難しくなり、労働者も安心して働くことができなくなります。
このままでは建設業全体としても悪循環を引き起こしてしまうとして、社会保険加入を促すために法定福利費の明示が推進され始めました。
従来の見積書との違い
国土交通省により提示された見積書は、従来の見積書と比べて法定福利費の取り扱いが明確になっています。
従来の見積書では取引慣行に従いトン単価や平米単価による見積が一般的であり、法定福利費の取り扱いや内訳などが不明確でした。
一方国土交通省によって新しく提示された見積書では、保険料の種類や内訳、料率、対象金額などが明確に記載されています。
内訳の明示はあくまで推進
法定福利費の内訳明示は法令によって義務化されているわけではなく、あくまでも推進に留まっています。
明示しなかった場合でも、何らかの法的拘束力や罰則があるわけではありません。
ただし、「社会保険の加入に関する下請指導ガイドライン」では、以下のように「社会保険加入が確認できない作業員については現場入場を認めない取り扱いをすべき」としている点には注意が必要です。
遅くとも平成29年度以降においては、適切な保険に加入していることを確認できない作業員については、元請企業は特段の理由がない限り現場入場を認めないとの取扱いとすべきである。
【引用】国土交通省 社会保険の加入に関する下請指導ガイドライン
また「法定福利費を内訳明示した見積書の作成手順」という資料においても、以下のように「明示された法定福利費相当額を賄うことができない金額で建設工事の請負契約を締結した場合は建設業法第19条の3に違反するおそれがある」としています。
下請負人の見積書に法定福利費相当額が明示され又は含まれているにもかかわらず、元請負人がこれを尊重せず、法定福利費相当額を一方的に削減したり、労務費そのものや請負金額を構成する他の費用(材料費、労務費、その他経費など)で減額調整を行うなど、実質的に法定福利費相当額を賄うことができない金額で建設工事の請負契約を締結し、その結果「通常必要と認められる原価」に満たない金額となる場合には、当該元請下請間の取引依存度等によっては、建設業法第19条の3の不当に低い請負代金の禁止に違反するおそれがあります。
【引用】国土交通省 法定福利費を内訳明示した見積書の作成手順
このように法令上の義務ではないものの、法令違反の可能性についての言及も含めて強く推進されていることは間違いありません。
【計算式あり】建設業の見積書へ法定福利費を明記する方法
建設業界の存続にもかかわりうる重要な取り組みであることも併せて考えると、政府や建設業団体の意向に従って取り組むべきでしょう。
法定福利費の計算や見積書の作成には難しい手順は不要なため、法令に従ってしっかりと社会保険加入を行っていれば問題なく対応が可能です。
ここでは国土交通省による見積書作成手順をもとに、見積書に法定福利費の内訳を明示する方法を3ステップで解説します。
STEP1:労務費の算出
まずは全体の労務費を算出しなければなりません。
自社の工事内容や実情などに応じた方法で算出する必要がありますが、所要人工数と1日あたりの賃金が明確になっている場合は、以下のように算出できます。
【所要人工数20人、賃金15,000円(1日あたり)の工事を行う場合】
・所要人工数 × 賃金 = 労務費
・20(人) × 15,000(円) = 300,000(円)
所要人工数が分からない場合、工事数量から歩掛りを割ることで所要人工数を算出することも可能です。
また人工数と賃金によって算出する方法のほかに、各社の経験や実績に応じた平均的な労務費比率を用いることでおおよその労務費を算出する方法もあります。
STEP2:法定福利費の算出
STEP1で算出した金額に保険料率を乗算し、法定福利費を計算しましょう。
見積書には以下を記載する必要がありますが、それぞれに法定保険料率をかけて法定福利費を算出します。
以下は事業主負担分のみをパーセンテージとして記載しています。
- 健康保険料:自治体による
- 厚生年金保険料:9.15%
- 雇用保険料:1.15%
- 介護保険料:1.6%
- 労災保険料:9.5%(全額事業主負担)
- 子ども・子育て拠出金:0.36%
※2024年8月25日時点で作成
法定保険料率は都道府県によって異なり、また年数回行われる改定によっても変動するため一定ではありません。(雇用保険料率を除く)
このため見積書に内訳を明示する際は、作成の都度法定保険料率を確認する必要があります。
なお雇用保険料率については厚生労働省のホームページから確認でき、それ以外の保険料率については協会けんぽのホームページから確認可能です。
また、社会保険の対象となる作業員の割合が分かる場合は、労務費総額にその割合をかけて必要な分のみ算出します。
対象となる作業員の割合が分からない場合は、全作業員加入を前提として算出して問題ありません。
算出する際は、事業者負担分のみ保険料率をかけるように注意しましょう。
例えば2021年の健康保険料率は9.84%、建設事業の雇用保険料率は12/1,000となっていますが、このうち事業者負担分はそれぞれ4.92%と8/1,000です。
確認箇所を見誤ると全額分の保険料を記載してしまうことになるため、雇用保険料については事業者負担の項目を、その他の保険料については記載の料率を半分にするようにしましょう。
STEP3:見積書への法定福利費明示
最後に、法定福利費のうちの事業主負担分を工事費とは別に見積書へ記載しましょう。
労務費を明確に算出した場合は各保険料ごとに法定福利費を明記し、概算した場合はおおよその金額を記載します。
見積書の項目を自動計算する方法
見積書に法定福利費を記載する手順はシンプルですが、記載するまでにはさまざまな費用を計算する必要があるため、手間がかかるだけではなくミスも発生しやすくなるでしょう。
見積書内の各種金額を自動計算する方法として「エクセルで自動計算する方法」と「ITシステムを利用する方法」の2つがあります。
エクセルで自動計算
エクセルで見積書を作成している場合は、関数を利用することで自動計算が可能となりますが、やや専門的な知識が必要なため注意が必要です。
複雑な関数を作成すると、管理が属人化してしまう可能性もあります。
エクセルで自動計算したいものの関数の作成が難しい場合は、見積書のエクセルテンプレートを活用すると良いでしょう。
ITシステムを利用
法定福利費も含めた見積書を効率的に作成したいなら、AnyONEなどのITシステムを利用すると良いでしょう。
AnyONEは、2,700社以上の企業に導入されている工務店向けの業務効率化システムです。
金額を自動計算する機能や項目を自動作成する機能が備わっているため、計算ミスを防止できるだけではなく、見積書作成の工数削減にもつながるでしょう。
エクセルのデータを取り込む機能も用意されているため、すでにエクセルで見積書を作成している場合でも簡単に利用できます。
まとめ
今回は建設業における見積書の法定福利費内訳明示について、その内容や背景から見積書の作成手順まで解説しました。
法定福利費の明示化により、建築業界全体における社会保険加入の状況改善につながると考えられます。
正確な見積書を作成するためには、工務店向けの業務管理システムを利用すると良いでしょう。
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導入実績2,700社超の業界No.1基幹システムで、国交省「第一回 長期優良住宅先導的モデル事業」に採択されています。
エクセルのような操作感で、レイアウトもマウスで変更できるため、ITが苦手な方でも簡単にお使いいただけます。
また、システムの導入後も徹底的なサポートを受けられるため、安心して運用できるでしょう。
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