施工管理職の採用が難しいと感じている企業は少なくありません。
建設業界は常に高い需要がある一方で、施工管理職の人材不足が深刻な問題となっています。
この記事では、施工管理職の採用が難しい理由を解説し、採用成功のためのポイントや、労働環境改善の取り組みについて解説します。
施工管理の有効求人倍率
施工管理職は、建設業界において欠かせない役割を担っていますが、求人倍率は非常に高く、人手不足が深刻な問題となっています。
厚生労働省のデータによると、2022年時点での建築施工管理技術者の有効求人倍率は約5.35倍と、全職業平均の1.28倍と比較しても極めて高い数値を示しています。
この高い求人倍率は、求人と求職者のバランスが大きく崩れているのが原因です。
建設業界では、この問題を解決するために、施工管理職の魅力を向上させ、労働環境の改善やキャリア支援の充実が求められています。
参考:建築施工管理技術者 – 職業詳細 | job tag|厚生労働省
参考:一般職業紹介状況(令和4年12月分及び令和4年分)| 厚生労働省
施工管理職の採用が難しい理由
施工管理職の採用が難しい理由には、さまざまな要因が絡んでいます。それぞれの要因を詳しく見ていきましょう。
建設業界の需要拡大
建設業界の需要拡大は、施工管理職の採用が難しい大きな理由の一つです。
日本建設業連合会のデータ「建設投資の動向」によると、直近10年間の建設投資は年々増加しています。
建設業界の需要拡大には、次のような要因が存在します。
インフラ整備の増加
日本各地でインフラの老朽化が進んでおり、補修や改修工事が急務となっています。
例えば、高速道路や橋梁、トンネルなどのインフラ施設は、建設から数十年が経過し、老朽化による安全性の懸念が高まっています。
災害復興プロジェクト
東日本大震災や熊本地震など、日本国内は頻繁に自然災害に見舞われています。
これらの災害からの復興プロジェクトが継続的に行われており、被災地でのインフラ復旧や新たな防災対策のための建設工事が増加しています。
都市再開発プロジェクト
東京、大阪、名古屋などの大都市圏では、都市再開発プロジェクトが活発に行われています。
例えば、東京の渋谷や品川、大阪の梅田などでは大規模な再開発が進行中であり、新たな商業施設やオフィスビル、住宅地の建設が計画されています。
大規模イベントの開催
2025年の大阪・関西万博など、大規模な国際イベントの開催も建設需要を押し上げる要因となっています。
イベントに向けた競技施設や関連インフラの建設工事が進行しています。
地方創生プロジェクト
地方自治体が推進する地方創生プロジェクトも、建設需要を高める要因です。
地域経済の活性化を目的として、観光資源の開発や地域産業の振興を図るための施設建設が挙げられます。
若年層の業界離れ
施工管理職の採用が難しい理由として、若年層の業界離れも挙げられます。
これは、業界全体の高齢化と相まって、深刻な人手不足を招いているからです。
日本建設業連合会のデータ「建設業就業者の高齢化の進行」によれば、2002年と2023年を比較すると、29歳以下の就業者数は19.1%から11.6%に減少しています。
若年層が建設業界を敬遠する理由の一つに、3K(きつい、汚い、危険)のイメージがあります。
「やめとけ」と言われるほどの労働環境の厳しさ
施工管理職が「やめとけ」と言われる背景には、過酷な労働環境があります。
建設現場では、長時間労働や過密なスケジュールが常態化しており、労働環境の厳しさが問題となっています。
施工管理職は工事の進行を管理するため、現場での長時間滞在が必要です。
さらに、工事の進行状況に応じて、休日出勤や深夜作業も避けられません。
日本建設業連合会のデータ「労働時間の推移」によると、2023年の建設業の平均労働時間は1,978時間であり、調査産業合計の1,726時間に比べて約250時間上回っています。
給与の課題
厚生労働省のデータ「建設業と取り巻く現状と課題」によると、2020年の全産業男性労働者の年間賃金は約545万円に対し、建設業男性生産労働者は約451万円程度です。
これは、建設現場において長時間労働を伴う業務内容に対して、決して十分な額とはいえません。
さらに地域差も課題の一つで、都市部と地方では同じ業務内容でも給与に大きな差がある場合があります。
地方では生活費が低いため給与も低く設定される場合が多いですが、これが原因で地方から都市部への人材流出が起こりやすくなっています。
施工管理技士資格取得の難しさ
施工管理技士の資格は、建設現場での管理業務を行うために必須の資格であり、取得によってキャリアアップや給与の向上が期待されます。
しかし、この資格を取得するための道のりは決して容易ではありません。
例えば、1級建築施工管理技士試験の合格率は、一次検定・二次検定ともに約40%です。
また、二次検定を受験するためには一定の実務経験が必要です。
この要件は、実務経験が困難な若年層にとって大きなハードルとなっています。
参考:建築・電気工事施工管理技術検定|一般財団法人建設業振興基金
施工管理職の採用成功のためのポイント
優秀な人材を確保するためには、企業は求職者に自社の良い点をアピールしなければなりません。
ここでは、施工管理職の採用成功のためのポイントを具体例とともに紹介していきます。
労働環境の整備
労働環境の整備には、以下の具体的な方法があります。
- シフト制やフレックスタイム制度の導入により、労働時間の柔軟化を図る。
- 最新のシステムの導入により、現場と事務所間のコミュニケーションを効率化する。
- 安全装置や保護具の最新技術を導入し、定期的な安全研修を行い現場の安全性を高める。
- 事故防止のための安全チェックリストの導入や、全従業員が参加する安全ミーティングを開催する。
魅力的な給与の提示
魅力的な給与の提示には、以下の具体的な方法があります。
- 資格手当や業績連動型ボーナスを追加して、給与の魅力を高める。
- 都市部と地方での地域差と業務内容を考慮した給与設定を行う。
- 昇給のプロセスや評価基準を明確にし、公正な評価制度を導入する。
- 定期的な評価面談を行い、目標設定と達成度に基づく昇給の仕組みを導入する。
キャリア支援の充実
キャリア支援の充実には、以下の具体的な方法があります。
- 新入社員向けの基礎研修や、現場での実践的なOJT、中堅社員向けのスキルアップ研修を実施する。
- 最新の建設技術や、プロジェクトマネジメントの手法を学べる研修プログラムを導入する。
- 施工管理技士などの資格取得のための講座や教材を無料で提供し、受験費用を補助する制度を設ける。
- 資格取得のための講師派遣やオンライン講座を提供し、従業員が効率的に学習できる環境を整える。
求人広告の工夫
求人広告の工夫には、以下の具体的な方法があります。
- 「施工管理」「安全管理」「品質管理」など具体的な業務内容を詳細に記載し、求職者が自身の適性を判断しやすくする。
- 企業の魅力や独自の取り組みを強調して、他社との差別化を図る。
- 職場の写真や動画、社員インタビューを掲載し、視覚的に企業の雰囲気を伝える。
- 現場での作業風景など企業で働くイメージを具体的に持ちやすくして、応募意欲を高める。
柔軟な採用プロセス
柔軟な採用プロセスには、以下の具体的な方法があります。
- 平日夜間や週末の面接を設定し、求職者の都合に合わせたスケジュール調整を行う。
- オンライン面接を導入して、遠方の求職者にも対応しやすくする。
- 応募から内定までのプロセスを迅速化して、求職者が他の企業に流れるリスクを減らす。
- 内定後も定期的に連絡を取り、求職者の不安や疑問に対応する。
DX化で働きやすい職場をアピール
デジタルトランスフォーメーション(DX)の導入は、施工管理職の働きやすさを向上させるための重要な手段です。
DX化の取り組みを通じて、企業がどのようにして魅力的な職場環境を提供し、優秀な人材を引きつけられるかを具体的に紹介します。
業務効率化で残業・休日出勤の削減
建設業専用システムを使用すると、工事管理が一元化され、リアルタイムで進捗を確認できます。
現場と事務所間の情報の伝達ミスが減り、さらに書類作成やデータ入力などの事務作業も自動化できるため、時間の節約ができます。
また、モバイルアプリの活用も有効で、現場作業員がスマートフォンやタブレットを使って現場から直接データを入力・共有できるため、事務所に戻る必要がありません。
現場での作業報告や進捗確認がリアルタイムで行え、業務の効率化が図れるため、現場での作業時間を短縮し、残業や休日出勤の削減が可能です。
安全管理の強化で労働環境を改善
建設現場は常に危険と隣り合わせであり、労働災害のリスクを削減するためには、適切な安全対策が必要です。
建設業専用システムの導入により、現場の全員が最新の安全情報を即座に確認できます。
また、紙ベースのチェックリストでは管理が煩雑になりがちですが、デジタルチェックリストを導入して、効率的かつ確実に安全チェックを行えます。
スマートフォンやタブレットでチェックリストを確認・記入でき、現場での作業中にも簡単に更新できるため、チェックの漏れやミスが減少し、安全管理が徹底されます。
まとめ
施工管理職の採用難を解消するためには、業界の特性と求職者のニーズを理解し、労働環境の整備をはじめさまざまな対策が必要です。
DX化を推進し、業務効率化と安全管理の強化で働きやすい職場環境を提供できれば、優秀な人材を引きつけられます。
効果的な取り組みを実践して、施工管理職の採用と長期的な定着を実現しましょう。
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