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新収益認識基準とは?背景や影響、経営に活かすポイントを解説

2021年4月から適用される新収益認識基準。早期適用されている企業も一部ありますが、上場企業は4月から強制適用と、目前に迫ってきています。

適用に向けて今まさに準備をしている経理担当の方も多いのではないでしょうか。

本記事では、新収益認識基準とは何なのか知りたい人や、経営への活かし方に悩んでいる人に向けて、背景や影響を解説します。

新収益認識基準適用の背景

新収益認識基準適用の背景

収益認識基準とは、売り上げ計上の会計基準のことを指します。
これまで約70年間、日本では売り上げに関する規定は「実現主義の原則による」と会計基準原則に記載されているのみでした。

ところがインターネットの普及に伴い、ビジネス形式は世界中で多様化。「実現主義の原則」といった単純な規定だけでは対応できなくなってきました。

そのような中で2014年、IFRS(国際財務報告基準)を作成しているIASB(国際会計基準審議会)と、米国の財務報告基準を作成しているFASB(米国財務会計基準審議会)が共同で「収益認識に関する基準」を公表しました。

そのような世界の対応を見て、日本でも2018年IFRSの要素を基本的にすべて取り入れた「収益認識に関する会計基準」が公表されました。これが新収益認識基準にあたります。

つまり、日本と海外の収益認識基準がほぼ同じになることで、日本企業と海外企業の売り上げを比較することも可能となります。

新収益認識基準の内容と特徴

新収益認識基準の内容と特徴

新収益認識基準を理解する上で重要なのが「履行義務」という考え方です。

履行義務とは、顧客と契約した際、商品やサービス等を顧客に渡すことを約束する、というものです。
つまり商品を売るときは、商品を売り渡す約束をして(履行義務)、その約束を果たす(履行義務の充足)と考えることができます。

この履行義務の充足という考え方に加えて、新収益認識基準では以下の5つのステップにおいて収益が認識されるとしています。

新収益認識基準
  • 契約の識別
  • 履行義務の識別
  • 取引価格の算定
  • 履行義務に取引価格を配分
  • 履行義務の充足による収益の認識

契約の識別

ビジネスにおいて、取引はまず契約からスタートします。「契約の識別」とは、売り手と買い手の契約として認められるものを収益とするという考え方です。

契約書という形でなくても、口頭によるものでも契約として認められますが、建設業では一般的に契約を書面で行います。

履行義務の識別

「履行義務の識別」とは、顧客との一つの契約の中に履行すべきものがいくつあり、それぞれどのような内容なのかを確認するというものです。

例えば建設業の場合、一人の顧客との一つの契約の中にも、設計・施工・管理など複数の履行義務があり、それらの履行義務の内容を明確にする必要があります。

取引価格の算定

「取引価格の算定」とは、いくらで取引を行うか、ということを指します。

ただし、「1ヶ月で●個以上契約した場合、△%引き」や「1ヶ月以内であれば返品OK」といった契約の場合は今後価格が変わる可能性があります。
したがってその点も考慮して取引価格の算定を決めなくてはいけません。

このように今後変わる可能性のある価格を「変動価格」といいます。

履行義務に取引価格を配分

「履行義務に取引価格を配分」とは、全体の取引価格を一つ一つの履行義務に配分するということを指します。

履行義務の充足による収益の認識

「履行義務の充足による収益の認識」とは、売り上げが計上される時期の確認を指します。
履行義務は一時点で充足されるものと、一定の期間にわたって充足されるものの2種類があります。

一時点で充足されるものはその一時点で収益を認識し、一定期間にわたって充足されるものはその期間に徐々に収益を認識します。
一定期間にわたって充足されるものは、例えば「●年保証」などがついていた際などです。

この「履行義務の充足による収益の認識」が建設業にとっては重要なチェックポイントとなるため注意が必要です。

新収益認識基準によって変わることや影響

新収益認識基準によって変わることや影響

新収益認識基準では、履行義務を確認した上で前述の5つのステップにおいて収益を認識します。

ここでは、これまでの収益認識方法から大きく変化した点や、建設業にどのくらいの影響があるのかを解説します。

新収益認識基準によって変化する点

新収益認識基準では、以下の3つの要件のいずれかを満たす場合は、一定期間にわたって徐々に収益を認識することができます。

逆に、いずれの要件にも当てはまらない場合は、一時点で収益を全額認識しなければいけません。

(1) 企業が顧客との契約における義務を履行するにつれて、顧客が便益を享受すること


(2) 企業が顧客との契約における義務を履行することにより、資産が生じる又は資産の
価値が増加し、当該資産が生じる又は当該資産の価値が増加するにつれて、顧客が当
該資産を支配すること(適用指針[設例 4])


(3) 次の要件のいずれも満たすこと(適用指針[設例 8])
① 企業が顧客との契約における義務を履行することにより、別の用途に転用する
ことができない資産が生じること
② 企業が顧客との契約における義務の履行を完了した部分について、対価を収受
する強制力のある権利を有していること

【引用】企業会計基準第 29 号収益認識に関する会計基準‐企業会計基準委員会

新収益認識基準による建設業への影響

建設業ではこれまで、会計では「工事進行基準」が用いられてきました。

5つ目のステップ「履行義務が一定期間にわたって充足されるものはその期間に徐々に収益を認識」が「工事進行基準」と似ているため、これまで使ってきた「工事進行基準」との違いによる影響が大きいのではと噂されていました。

しかし影響をなるべく少なくするために、新収益認識基準では代替的なものも用意されています。
例えば原価回収基準の取り扱いにおいては、契約初期段階では収益を認識せず、見積れる時点で収益を認識することも容認されています。

また、期間が短い工事も、金額がそこまで重視されないため、履行義務を充足した時点で収益を認識させることが容認されています。

ただし、影響が少ないとはいえ、今後のためにも変化した点を理解することは重要です。

経理担当者の注意点

経理担当者の注意点

ここでは、新収益認識基準の適用に伴って経理担当者が注意すべき点を解説します。

一人親方を除き、新収益認識基準の適用には他部署の協力も必要となってくるため、ポイントをしっかり押さえてスムーズに連携できるようにしましょう。

営業担当者との連携

売り上げに関しては経理が主導となって処理を行いますが、売り上げの計上方法は、プロジェクトの進め方にかかわってくる部分でもあります。

そのため、できるだけ早めに営業担当者などプロジェクトに携わる他部署との連携をしっかり行い協力するようにしましょう。

そして、各部署がこれまで以上に細かく工数を計算し、変化した収益認識基準に対応できるようにしておきましょう。

内容をしっかり理解して経営に活かす

初めはこれまでとの違い、変化に戸惑うこともあるかもしれませんが、内容をしっかり理解し、各部署の連携を取ることができれば問題ありません。

また、新収益認識基準は様々な形のビジネスに対応できるように設けられたものです。

適用されることによって、競合との売り上げの比較などがこれまでよりも行いやすくなることが見込めます。

まとめ

今回は、2021年4月から順次適用される新収益認識基準について解説しました。

ビジネス形式の多様化に伴い、これまで単純だった売り上げに関する規定も、世界進出を視野に入れて変化しています。

上場企業でなくとも、徐々に新収益認識基準が適用されていく見込みです。

経理担当の方のみならず、管理を担当している人はしっかり理解して他部署と連携できる準備を進めておきましょう。

そして、これまでビジネス形式が違った競合との売り上げ比較をスムーズに行えるようにするなど、自身のビジネスに活かしてください。

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