建築・建設業界は、2024年の働き方改革関連法の全面適用によって、大きな転換期を迎えています。
この法改正は、業界内で長年根付いてきた慣習や働き方に影響を及ぼすため、多くの企業は新たな課題に対応しなければなりません。
本記事では「建築・建設業の2024年問題」の背景や具体的な内容、そして業界がどのように対応すべきかについて、詳しく解説していきます。
現代の建築・建設業界が直面する重要なテーマを、具体的な解決策とともに確認していきましょう。
目次
建築・建設業の2024年問題とは?
はじめに、いわゆる「2024年問題」の概要と、働き方改革関連法について解説します。
2024年問題の概要
2024年問題とは、働き方改革関連法により、時間外労働の上限規制や割増賃金の規定などが建築・建設業界に適用されることを指します。
これまで建設業、運送・物流業は、その他の業界よりも5年間の猶予期間が与えられ、働き方の見直しが求められてきました。
建築・建設業界では、工期に追われる形で長時間労働が常態化しており、業界の大きな特徴の一つとなっています。
しかし、2024年4月以降は厳しい時間外労働の規制が設けられ、建築・建設業界にとって大きなハードルとなり、多くの面で見直しが求められます。
働き方改革関連法について
働き方改革関連法とは、労働者の働き方や生活の質を改善することを目的とした法改正です。
2019年に施行され、労働時間の上限規制や有給休暇の取得促進、同一労働同一賃金の原則の導入など、労働者の健康とワークライフバランスの保護を重視しています。
この中で特に建築・建設業界に大きな影響を与えるのが、時間外労働の上限規制です。
法律では、時間外労働は原則として月45時間、年360時間を超えてはならず、例外的な場合でも年間の上限は720時間に制限されます。
この法改正は、建築・建設業界における人材の確保と育成、業界全体の生産性向上に寄与すると期待されています。
特に若い世代の労働者にとって、健康的な労働環境は職場選びの重要な基準となるため、働き方改革は業界の将来に向けた重要な一歩となるでしょう。
働き方改革関連法の適用により、建築・建設業界はこれまで以上に労働環境の改善と、効率的な業務運営を追求する必要があります。
建築・建設業が直面している課題
ここからは、長時間労働の問題、深刻化する人手不足など、業界が抱える現状の問題点を確認していきます。
長時間労働の常態化
建築・建設業界における労働環境の大きな課題の一つが、長時間労働の常態化です。
厚生労働省の報告によると、建設業の年間労働時間は、全産業平均よりも約200時間以上長い実態が明らかになっています。
業界の特性上、避けがたい側面があるものの、労働者の健康への影響を考えると、改善が急務であることは間違いありません。
建築・建設業界の長時間労働の背景には、以下のような複数の要因が絡み合っています。
- 工期が限られており、計画通りに進まない場合、残業が増加する傾向にある
- 技術者の不足が、長時間労働を助長している
- 伝統的な働き方や企業文化が、長時間労働を暗黙の了解とする傾向にある
このような長時間労働の常態化は、労働者の健康を損なうだけでなく、仕事と私生活のバランスを崩し、生活の質の低下をもたらします。
また、過度な疲労は作業中の事故やミスを増やすリスクを高め、結果として工事全体の安全性や品質に悪影響を及ぼす可能性もあるでしょう。
人手不足と高齢化
建築・建設業界では、人手不足と労働力の高齢化が、業界全体の持続可能性を左右する大きな課題です。
総務省の報告によれば、建設業の就業者数は過去数十年にわたって減少傾向にあり、高齢化の進行が顕著になっています。
若年層が建設業への就職を敬遠する要因は、業界が抱える厳しい労働環境や過酷な労働条件です。
加えて、建設業の就業者のうち、55歳以上の高齢層の割合が全体の約35%を占めており、これが将来的な技術継承の課題といえます。
人手不足の解消と高齢化対策は、建築・建設業界における2024年問題への対応策として重要な位置を占めるでしょう。
【参考】建設業就業者数の推移|建設業の現状|日本建設業連合会
【参考】建設業就業者の高齢化の進行|建設業の現状|日本建設業連合会
建築・建設業の2024年問題に向けた解決策
建築・建設業界が直面する2024年問題には多くの課題がありますが、業界全体が取り組むべき解決策について詳しく見ていきます。
適切な工期の設定
建築・建設業界において、適切な工期の設定は、業務の質を保ちながら労働者の健康と安全を守るために欠かせません。
2024年問題に対応するためには、工事のスケジュール自体を見直し、現実的かつ実行可能な計画を立てることが求められています。
国土交通省は「適正な工期設定のためのガイドライン」を公表し、工事の発注者に対して、週休2日制を考慮した工期の設定を推奨しています。
工事現場では、天候不順や材料の遅延など予期せぬ事態が発生することも少なくないため、余裕をもったスケジュール設定が必要です。
適切な工期の設定によって、労働者は健康的なワークライフバランスを保ちながら働くことができ、企業は品質の高い建造物を提供できるようになります。
【参考】建設工事における適正な工期設定等のためのガイドラインについて|国土交通省
労働時間管理の徹底
長時間労働が常態化している業界の特性上、従業員の健康と生産性を守るためには、明確な労働時間管理体制を確立する必要があります。
労働時間管理を徹底させるために、多くの企業では勤怠管理システムの導入に取り組んでいます。
最新の勤怠管理システムでは、従業員の出勤・退勤時間を正確に記録し、時間外労働が規定を超えそうな場合には、管理者へのアラート機能が働くようになっています。
また、時間外労働を減らすための工夫も進められています。
例えば「ノー残業デー」の設定や、作業の効率化を図るためのICTツールの積極的な活用などが挙げられます。
さらに、労働時間管理の徹底には、従業員教育も欠かせません。
時間管理の重要性や、長時間労働の健康への影響などについての定期的な研修を実施し、従業員一人ひとりが自らの労働時間を意識する文化を醸成することが重要です。
労務環境の改善
労務環境を改善することで、従業員の仕事に対する満足度を高め、長時間労働の是正や人材不足問題の解決につながります。
労務環境の改善策としては、以下のような事例があります。
- 健康診断の受診率向上
- メンタルヘルスケアの充実
- 育児・介護休暇制度の導入
- テレワーク・フレックスタイム制度の導入
このような制度を導入することで、従業員が仕事と私生活のバランスを取りやすくして、ワークライフバランスの実現をサポートできます。
若手人材の育成
建築・建設業界が直面している人材不足と高齢化の課題に対応するため、次世代の技能者を確保し、育成することが急務となっています。
従来からの職人文化に根ざしたOJT(On the Job Training)は、現場での実務を通じて技能を身につけるために有効ですが、それだけでは不十分です。
技術の進歩に対応し、新しい建設技術やICT(情報通信技術)を活用した工法を学ぶための体系的な教育プログラムの導入が求められます。
また、若手人材が長期的に建築・建設業界で働き続けるためには、キャリアパスの明確化も重要です。
従業員が自身のキャリアを描き、スキルアップに向けた目標を持てるように、資格取得のサポートや昇進・昇格の機会を提供することが必要です。
この点で、国土交通省が提唱する「建設キャリアアップシステム」の活用が効果的でしょう。
このシステムにより、従業員は自らの経験や資格を登録し、キャリアアップのための情報を収集することができます。
さらに、若手人材が建築・建設業界に興味を持ち、参入しやすくするためには、業界全体のイメージ向上も必要です。
建設業の魅力を伝える取り組みや、若者に向けた情報発信を強化することで、建設業への関心を高め、新たな人材の流入を促進することが期待できます。
【参考】建設キャリアアップシステム
DXの推進
建築・建設業界におけるDX(デジタルトランスフォーメーション)の推進は、労働力の問題を解決し、生産性を大幅に向上させるためのカギとなります。
例えば、ドローンを用いた3D測量技術は、建設現場の計測作業を効率化し、従来の方法に比べて時間とコストを大幅に削減することが可能です。
また、BIM(Building Information Modeling)技術の活用は、設計から施工、維持管理に至るまでのプロセスを一元的に管理し、情報の共有を促進します。
このように、DXを推進することで、建築・建設業界は限られたリソースを最大限に活用し、より効率的で持続可能なビジネスを展開することが可能になるでしょう。
しかし、DXの推進には、従業員のスキルアップや組織文化の変革も必要です。
デジタル技術を活用するための研修や教育プログラムの整備、イノベーションを促進する組織風土の醸成が、成功のためには欠かせません。
また、セキュリティ対策やプライバシー保護の観点から、適切なデータ管理の体制を構築することも、DXを進める上で重要な課題です。
まとめ
建築・建設業界は、2024年問題によって労働時間の厳格な管理と働き方の改革を迫られています。
DXの推進による業務効率化の実現により、新たな価値創出に向けた変革を実現することが期待されます。
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