工務店では近年、深刻な人手不足に悩んでいるところが少なくありません。
特に、現場の高齢化などが問題になっており、労働環境をいかに改善するかに焦点が当てられています。
今回は、工務店の人手不足の現状から、対処法までを詳しく解説します。
目次
深刻な工務店の人手不足
まずは、なぜ工務店では人手不足が深刻化しているのか、下記に焦点を当てて詳しく説明します。
建築現場は増加していない
人手不足の主な原因は、建築現場の増加によるものではありません。
国土交通省の発表によると、持家や賃貸などの新設住宅着工戸数は、平成30年度は前年比0.7%増となっています。
また、以前の前年度比を見ても、劇的な増加が見られる年度はありません。
野村総合研究所は、新設住宅着工戸数が2017年度の95万戸から、2030年度には60万戸まで減少すると予想しています。
大工の高齢化と人数減少
建築現場は増えていないにも関わらず、工務店が人手不足に悩んでいる深刻な理由のひとつに、「大工の高齢化」とそれに伴う「人数減少」があります。
全体的に次世代を担う20~30歳代の若手大工が少ないです。
その代わり、40歳代以上の大工の人数が占める割合は大きく、近年は60~70歳代の大工も珍しくありません。
この結果、ベテラン大工が引退するたびに、その人数も減少の一途をたどります。
総務省の国勢調査によると、今から20年前の2000年には65万人の大工が建築現場で活躍していました。
しかし、2015年には35万人まで大工の人数は減っています。
このままでは、2030年には21万人まで大工の人数が落ち込むという予測が、野村総合研究所より発表されています。
建築現場が増えないとしても、大工の人数が不足しているため、家を建てたいのにいつまでも着工できない将来がすぐそこに来ているといえます。
大工の賃金問題
人手不足になる原因は、賃金の低さもあげられます。
大工の平均年収額は400万円代で、40歳代になるとほぼ金額が頭打ちになります。
また、一般の会社であれば月給制ですが、大工の場合は日給×1か月に働いた日数という支給方法をとっている場合も多いため、悪天候や怪我などで働けない日は無給となります。
見習いのうちは日給が約1万円であるため、働く日数によりますが、年収は300万円前後です。
もちろん経験を積めば金額は増えますが、月に働ける日数に差があるため、安定した収入を確保することは難しいといえます。
大工の労働条件問題
大工の労働時間は、他の職業と比べて長いのも特徴です。
一般的な企業とは異なり、8時間労働で帰宅できないことがほとんどです。
もちろん、完全週休2日制・土日祝休みでもないことが多いです。
大工は木材などを運ぶため重労働であり、通年を通して冷暖房の効いた室内での作業も当然不可能なことから、過酷な労働条件と言えるでしょう。
昔ながらの習慣が後継者不足につながる
大工をはじめ職人の仕事は、若いうちは親方のそばで技術を見て学ぶといった、いわゆる叩き上げの習慣があります。
この習慣が、後継者不足につながっている要因でもあります。
きつい仕事にプラスして賃金水準が低い、さらに一人前になるまでの期間が長いことを理解して、大工の門をたたく若者は少ないのが現状です。
人手不足の対処法
では上記の点をふまえ、工務店の人手不足に対処するにはどうすればいいのか、下記に着目して説明します。
現場での工程簡略化
住宅を建てるにあたり、現場で作業する行程を可能な限り減らすことで、効率を上げることができます。
「大工の高齢化と人数減少」で紹介した現状を考えると、大工の生産性を今までの1.4倍まで引き上げない限り、新設住宅着工戸数が60万戸まで減少したとしても対応できなくなると予測されています。
行程簡略化の方法は、例えば、今まで現場で住宅の屋根を組み立てていたものを、工場である程度組み立ててから現地で取り付けを行うなどです。
キッチンなどの水回り、クロス貼りもあらかじめ工場内である程度取り付ければ、現場での作業行程が減るでしょう。
職人の労働環境の改善
人頼りにしていたことを、ロボットやコンピューターのシステムに切り替えることも、人手不足の解消につながります。
施工ロボットを導入すれば、今まで職人が作業していた仕事を精度よく代行してくれます。
また、使用する部材や製造工程をシステムで管理することで、間違いを防ぎ、効率的に作業することができるでしょう。
建築現場では、職人たちがいくつもの作業をこなします。
施工ロボットは、作業行程を機械化・自動化できるため、職人の作業量を軽減できます。
ロボットは、資材を運んでくれるロボット、溶接ロボットなど複数種類あり、これらをうまく取り入れることで、職人の労働環境の改善が可能になるでしょう。
人手不足を回避するコツ
人手不足を施工ロボットやシステムで補うこともひとつの手ですが、人の手で行う作業工程がある以上、新たな人材育成は必須です。
実際、若手が入らないと人手不足は回避されません。
きちんと次世代の職人が育ってくれれば、工務店の将来は安定するでしょう。
人手不足を回避するコツを、下記の項目に焦点をあてて紹介します。
採用ターゲットは幅広く
新たな人材を確保するにあたり、採用ターゲットを幅広くすることをおすすめします。
高校卒、高専卒、専門学校卒、短大卒、大学卒、中途採用さらには外国人までを視野に入れます。
「大工の息子は大工」というように、親と同じ職業を選択することが多い時代は、人材確保に今ほど苦労しませんでした。
しかし、今は親と同じ仕事を必ずしも選ばない時代です。
新卒だけをターゲットにせず視野を広く持ちましょう。
仕事に意欲的な人なら、中途採用でもかなりの戦力になります。
また、熱心に仕事を覚えたい外国人の労働力も貴重です。
そして大切なのは、きちんと職人を育てる会社であるというアピールです。
新たな人材の教育
会社として新たな人材の「教育方針」を固めておくことが重要です。
これは、社長はじめとした管理職の人達が、現場の職人たち(親方)と相談しながら決めると良いでしょう。
以前は大工をはじめとした職人の世界は、見て覚えろという完全に叩き上げでしたが、今は採用した人をどのように育てるかが大切です。
高卒や中途採用の募集をかけるということは、新人が建築に関して十分な知識を持っていないことも当然考えられます。
そのため、個人のバックグラウンドに合わせて、丁寧に建築の知識と技術を教えていくことが求められます。
職場環境を整える
一度、自社の職場環境を見直すことも大切です。
どうすれば、若い人が長く働きたいと思える会社をつくれるかを考えましょう。
前述した教育方針にはじまり、会社の雰囲気はどうでしょうか。
社員の仕事の成果を明確に評価することができているか、給与システムについても変えていくことが必要な可能性があります。
いきなり職場環境を変化させるのは大変かもしれません。
ですが、従来のイメージである、重労働、長時間拘束、低賃金、そのうえ先輩がなかなか仕事を教えてくれないという問題を払拭できれば、この会社で長く働きたいという若手が現れます。
職場環境の整備は、これからの若手のためだけでなく、会社全体が大きく前進することになるはずです。
まとめ
工務店の人手不足は、深刻な状況にあります。
建築現場が急激に増加していないにもかかわらず、現場で作業にたずさわる大工の高齢化や職場環境、賃金体制などの問題から、2030年には大工の人口は21万人まで落ち込むと予想されています。
人手不足の解消は、現場の作業行程を減らす、ロボットやシステムを導入し、今まで人が行っていた部分を補うなどの解消方法があげられます。
これに加え、大切なのは若手の教育であり、職場の環境を整備することです。
職人は叩き上げで、教わらずに見て覚えるという昔気質を改善できれば、会社の人手不足は解消されるでしょう。