工事現場の見積り計算は、膨大な図面から導き出した積算結果に、諸経費や利益を加算する作業です。
しかし、見積り対象となる図面の多さから負荷が高い作業といえます。
この記事では建設業の見積り計算の概要や積算との違い、見積り計算方法と見積りの意義・課題点を解説。
そのうえで効率的に建設業の見積り計算をおこなう方法を紹介します。
建設業の見積り計算とは
建設業の見積り計算の概要と、混同されやすい積算との違いを解説します。
まずは見積り作成の概要を理解しましょう。
工事請負提示額の算出
建設業における見積り計算とは、工事請負提示額の算出を意味します。
見積りは施主に対して「この程度の費用がかかります」と提示するためのもので、原価に加えて自社の利益や諸経費を加えて計算された数字です。
混同されやすい積算との違い
建設業の見積りと積算の違いを解説します。
見積りが施主に対して提示する工事請負提示額の算出であるのに対し、積算は原価を計算するものです。
積算結果は自社の原価見積りを決定する際に必要なものであり、施主に対して提示するものではありません。
つまり積算結果は、見積り積算の結果に想定する利益を加えたものと説明できます。
積算と見積りは密接な関係がありますが、利益や諸経費が含まれているかどうかが異なることを覚えておきましょう。
積算についてより詳しく知りたい方は、積算の概要やおすすめソフトを紹介した記事を参考にしてください。
建設業の見積り計算方法
建設業の見積り計算方法を解説します。
計算式の基本、見積りの流れを説明します。
基本の見積り計算式
建設業における見積り計算式の基本は以下となります。
この数式は労務費・外注費・資材費に応用できます。
設計図をもとに必要資材数量を算出
意匠図や構造図をもとに、必要な資材の数量を算出します。
建設工事には数百種類の資材が使われ、また自社在庫がないものは外注しなければなりません。
発注数量を決め、また自社の在庫数で間に合うものを算出するためにも、まずは必要資材の拾い出しが必要です。
労務費・外注費の計算
次に納期に合わせて工程を考え、労務単価を計算します。
工程にどの程度の人員が必要かを計算する作業です。
自社で直接雇用している社員が工事現場に出て作業する場合は、直接労務費として計上します。
職人を外注するケースも多いですがその際は、外注費としての計上が必要です。
見積り書・工事台帳に区別して記載する必要があるため、自社在庫と外注を明確に分けて計算しましょう。
労務費について詳しく知りたい方は、労務費の概要を解説した記事を参考にしてください。
直接経費の計算
直接経費の計算も忘れてはいけません。
建設現場における直接経費とは、工事現場で使用する水道光熱費や機械の経費を意味します。
工事現場においては機材を動かすための電気・水道代などの費用、また施工にあたり必要となる機械の使用に伴う経費を計上しなければなりません。
機械経費とは、国土交通省の規定によって上記のように分類されており、細かく計算する必要があります。
最終調整
完成した見積りを見積り書にまとめて施主へ提示し、その際に最終調整をおこないます。
建設業でよくあるパターンは、「端数を切ってキリの良い数字にしてほしい」という要望です。
その際は消費税10%を含んだ状態でキリの良い金額になるよう計算しましょう。
そのほか値下げ交渉や工事条件の変更があるケースもあるため、その際は再度見積りを計算し直しとなります。
見積り書作成方法について詳しく知りたい方は、見積り書の概要や記載事項、作り方をまとめた記事を参考にしてください。
建設業の見積り計算は精度が命
建設業の見積り計算は精度が非常に大切です。
見積りが甘ければ実際の数値と誤差が出るため、後々トラブルに繋がります。
見積りの重要性を改めて認識しておきましょう。
施主とのトラブル防止
精度の高い見積りを作成すれば、実効予算との差がなくなるため、施主様への追加費用の請求をおこなう必要がなくなります。
見積りと実効予算との差が大きいほど施主とトラブルになる可能性が高く、また自社利益額が目減りするリスクがあるでしょう。
施主とのトラブルは信頼の損失となりますし、利益額が減ることは経営状態に直接的な影響を及ぼします。
精度の高い見積りを作ることが、自社健全な運営やクライアントとの信頼関係構築に繋がるでしょう。
スムーズな契約
見積りを詳細かつわかりやすく作成すれば、スムーズに契約に漕ぎつけやすいです。
施主が提示した見積りに納得しなければ、契約は進みません。
しかし、必要な資材や人材を明確にし、詳細に記載していれば施主との合意形成のもとスムーズな契約をおこなえます。
利益率の確保
建設業だけでなく、事業運営において利益率は非常に大切です。
特に建設業は利益率が低いとされており、仮に1%でも利益率を落とすと自社利益が目減りしてしまいます。
精度の高い見積りを算出できれば、利益額が減ることを防ぎ、予算達成しやすくなるでしょう。
建設業の見積り計算に時間がかかる原因
建設業の見積り作成は時間がかかり、業務負荷が大きい仕事です。なぜ見積り作成の業務負荷が大きいのか理由を解説します。
特に見積り作成に膨大な時間をかけている場合は、業務環境の改善やコスト削減のためにも、早急な対策が必要です。
まずは見積り作成に時間がかかる理由を把握したうえで、対策を練りましょう。
膨大な必要資材量
請負工事の施工には膨大な資材が必要です。数百種類の資材を使用し、在庫・外注が混在するため、資材の把握が難しいことが見積り作成の負荷を上げています。
まず設計図から必要な資材を拾い出すだけで時間がかかり、必要資材単価の変動をチェックしつつ計算しなければなりません。
見積りに用いる資材が多く、原価変動しやすいことも建設業の見積り作成に時間がかかり理由となります。
外注費
工事には自社の社員のみならず、職人を外注するケースが多いです。
工程と工数を割り出し、そのうえで人材を無駄なく発注する必要があるため、外注費の算出に時間がかかります。
施主との交渉
自社の積算をまとめて見積りを作成しても、最終的に施主から変更依頼や条件変更依頼がある可能性があります。
その場合は見積りを再度作る必要があ理、修正作業に時間を要するでしょう。
効率よく建設業の見積り計算をする方法
時間がかかりがちな建設業の見積り計算を効率化する方法を2つ紹介します。
小規模なリフォームなどでは手書きを用いている工務店も一部ありますが、効率的とはいえないため、原則システム管理またはエクセルでの作成がおすすめです。
見積り作成システム、エクセルテンプレートの使用のメリットとデメリットを比較します。
見積り作成システムで計算
建設業の見積り計算を効率的にしたいのであれば、見積り作成システムの使用がおすすめです。
見積り作成システムとは、システム上で原価マスターデータを管理し、そのデータを使用して見積り書出力まで一貫しておこなえるソフトウェア・アプリを指します。
見積り作成システムを導入するメリット、デメリットは以下のようなものです。
見積り作成システムは、システム内に原価データを保持でき、そのデータを利用してワンタッチで見積り作成が可能です。
過去の見積りデータを蓄積できるため、似たような現場の場合は効率的に精度の高い見積りを作成できます。
またシステムによっては契約書作成に見積りデータを流用できるため、契約業務も効率化するでしょう。
さらにクラウド型の見積り作成システムを利用すれば、オンラインで見積り書の共有が可能。
見積り書の書式も一定化でき、新人とベテランなど個人間で見積り精度・書式がバラつくことを防止できます。
発注状況が一覧化できるため、作業の属人化を省き労働環境の改善にも繋がるでしょう。
さらに経営陣にとっては、迅速に共有される見積り・粗利予測をもとに経営判断がつけやすくなります。
ただし、見積り作成システムは導入費用がかかるのが難点です。
システムによっては初期費用に加えて、月額費用がかかるものもあります。
また通常利用しているシステムと操作感が異なり、現場に混乱を招く可能性がある点も考慮すべきです。現場に丁寧な研修・サポートをおこなうための資料の提供、またはサポートを提供しているベンダーを選んでください。
見積り作成システムの概要やおすすめシステムを詳しく知りたい方は、以下の記事で詳しく紹介しています。
また、コスト面が不安という工務店・企業担当の方は「IT導入補助金」を利用すれば自社負担を抑えてシステム導入が可能です。
「IT導入補助金」については以下の記事で詳しく解説しています。
エクセルテンプレートを使用して計算
システムコストを抑えたい方は、エクセルテンプレートを使用して安くいますぐに見積り計算を自動化できます。
エクセルで見積り作成するメリット・デメリットは以下の通りです。
エクセルはすでに多くの企業で導入されているソフトのため、導入費用がかかりません。
またエクセルは表計算ソフトであり、自動集計機能が豊富で見積り計算には向いているソフトといえるでしょう。
自社で雛形を用意できない場合は、無料で提供されている便利なテンプレートを使用してみてください。
デメリットとしては、テンプレートを用いたとしても計算式は自社で入力する必要があることです。エクセルが得意な社員がいない場合は、数式の設定自体が難しいでしょう。
また、エクセルは入力ミス・操作ミスを防止する機能が多くなく、設定もエクセルの知識が必要となります。
営業が外部で見積り書を確認する機会が多い場合は、エクセルでの見積り作成・管理はおすすめしません。
エクセルはオンライン共有機能がないため、外部での閲覧に優れていないためです。
エクセルでの見積り作成の方法を詳しく知りたい方は以下の記事で紹介しています。
また、テンプレートで見積り計算を始めたい方は、「AnyONE」が提供している無料テンプレートを使用してみましょう。
自動集計できる計算式
エクセルテンプレートを用いて見積り計算をおこなう場合、以下3つの計算式を最低限覚えておきましょう。
=SUM(“指定セル”:”指定セル”)
=(”指定セル”*”指定セル”)
基本の足し算・掛け算は上記数式で自動計算できます。
また、別のエクセルシートでエクセル原価管理をおこなっている場合は、データを自動で引用する「VLOOKUP」という数式を使いましょう。
=vlookup(“参照するセル”,”参照範囲”,”指数”)
VLOOKUPとは、表の縦方向にデータを検索し、一致した値を表示させる数式です。
別で作成した原価表シートから、名前が一致する建材名の価格を検索し、自動で指定のセルに表示させられます。
例として、上記のような見積りを作成したいと仮定します。
単価の部分に原価シートから、 ひとつずつ単価をコピーすることは面倒ですし、時間がかかるためVLOOKを使用して作業を短縮しましょう。
まず、表示させたいセルを選び、VLOOK関数を入力します。
=vlookと入力すると、以上のように指数を入れる指示欄が出てきます。
まず今回は建材Aの単価を原価シートから調べたいため、建材Aが入っているセル(A2)を選択しましょう。
次に建材Aの単価が入力されている原価シートで範囲を指定します。
最後の”指数”は、基準とするA2と一致するデータが入っている行から、垂直に何列目のデータを参照するか、という意味です。
つまり今回の場合は、2行目になるため、2を入力します。
入力が正しくおこなわれると、原価シートから建材Aの単価が上記のように表示されました。
最後に単価合計欄のセルに”*”を使用した掛け算の式を入れておけば、自動的に合計額が表示されます。
最終的な単価合計は一番下に欄を作成し、SUM(合計)関数を入力すれば自動合計計算が可能です。
見積り計算に便利な数式であるため、この3つの数式は覚えておくと良いでしょう。
まとめ
建設業の見積りは工程が多く、また計算する資材・人材の数量が多く負荷がかかりがちです。まずは見積り作成の目的を正しく把握し、そのうえで精度の高い見積り作成を目指しましょう。
効率的に膨大なデータを計算するためには、見積り作成システムの導入がおすすめです。費用がかかるのが難点となりますが、IT導入補助金の利用も併せて検討してみてください。
どの見積り作成システムが適切か迷っている方は、工務店向けに作られた業務を統合管理できるシステムをおすすめします。
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単価×数量