中小企業の新しい経営のアイデアや効率化などを支援する制度として、ものづくり補助金があります。存在を知っていても「必要書類がたくさん必要なのでは?」となんとなく避けていた工務店もあるのではないでしょうか。
本稿では、ものづくり補助金とはどのようなものか、概要や申請方法、補助金の注意点などについて解説します。
ものづくり補助金とは?


ものづくり補助金は、正式には「ものづくり・商業・サービス生産性向上促進補助金」といいます。
中小企業が経営革新を図るために投資する設備等に活用できる補助金で、新製品の試作品の開発や、生産ラインの新規導入、新たなサービスの取り組みやこれらの導入に必要な専門家への相談、人材の確保などにかかる費用の一部が補助対象です。
補助金額は、条件によって変わり2,000万円までを上限とし、補助率は1/2~3/4です。
【参考】ものづくり・商業・サービス生産性向上促進事業令和3年度補正予算の概要
今回のものづくり補助金の導入背景
ものづくり補助金は、2012年の補正予算から現在まで続いている補助金制度です。大企業と違い開発や設備投資に十分な資金を準備できない中小企業は少なくありません。
しかし、新たなサービスや試作品の開発を進めていかなければ、中小企業の発展にもつながりにくいのが実情です。返済が必要ない公的資金である補助金を活用してもらうことで、今までできなかった新たな経営革新への投資を実現することができます。
【参考】ものづくり・商業・サービス生産性向上促進事業令和3年度補正予算の概要
工務店におけるものづくり補助金の導入メリット
ものづくり補助金の導入は、中小企業の革新的経営につながるものとされるわけですが、具体的に工務店が導入することでどのようなメリットがあるでしょうか。
補助金は交付されたあとでも、交付額を返済する必要がない点が大きなメリットのひとつです。これは工務店に限らず、補助金を導入するすべての企業にいえることでもあります。一般的に設備などの投資に金融機関からの融資を利用することが多いですが、もちろん返済が必要です。補助金の利用で企業の金銭的な負担は大きく削減します。
工務店においては、今までなかなか導入できなかったIT分野への活用に取り組めるというメリットが考えられます。たとえば、ドローンを導入することによって、屋根や高階層の外壁など高所での点検作業でも足場が必要なく行えたり、作業のリスクを少なくできたりします。
また、非対面型のサービス導入により、今まで対面で行ってきた打合せや現場確認を遠隔などで進めることができ、新型コロナウイスルの感染拡大などにも影響されにくい営業システムの導入なども検討することができるでしょう。
工務店を含む建設業界は、デジタル化が進む中でも手仕事が必要な「アナログ世界」であったことは否めません。もちろん、職人が実際の現場でものづくりに取り組むというスタイルは、今後も変わらないことです。
しかし、現場以外での効率化はまだまだ改善の余地があります。ものづくり補助金の導入は、工務店の革新的な経営への取り組みに非常に有意義な制度といえます。
ものづくり補助金の概要


ここからは、ものづくり補助金の概要について詳しく解説します。しっかり確認して申請するようにしましょう。
補助上限額や補助率
補助上限額や補助率は次の通りです。工務店が活用しやすいのは、一般型でしょう。
それ以外の補助上限は、従業員数に応じて決まります(後述)。
申請類型 | 補助上限 | 補助率 |
---|---|---|
通常枠 | 750万円、1,000万円、1,250万円 | 中小1/2 小規模2/3 |
回復型賃上げ・雇用拡大枠 | 750万円、1,000万円、1,250万円 | 2/3 |
デジタル枠 | 750万円、1,000万円、1,250万円 | 2/3 |
グリーン枠 | 1,000万円、1,500万円、2,000万円 | 2/3 |
補助対象経費
ものづくり補助金で対象となる経費は次の通りです。特別枠では広告宣伝費が、事業再開枠では消毒やマスク購入なども対象となります。
経費の種類 | 内容 |
---|---|
機械装置・システム構築費 | 機械・装置・工具・器具の購入、製作、借用のための経費 専用ソフトウエア・情報システムの購入・構築、借用のための経費 改良・修繕、据え付けのための経費 |
運搬費 | 運搬料、宅配・通送料等のための経費 |
技術導入費 | 知的財産権等の導入のための経費 |
知的財産権等関連経費 | 特許権等の知的財産権等の取得に必要な弁理士の手続き代行費 |
外注費 | 新製品・サービスの開発のための加工や設計・検査などを外注した際の経費 |
専門家経費 | 本事業遂行のために依頼した専門家の報酬等 |
クラウドサービス利用費 | クラウドサービスの利用のための経費 |
原材料費 | 試作品の開発に必要な原材料や副資材の購入のための経費 |
公募の種類と期間、申請方法
公募は1次公募から5次公募まで年間で5つの公募期間が設けられています。公募の種類と申請方法などを確認していきましょう。
公募期間の締切
3月、5月、8月、11月、翌年2月
公募の種類
ビジネスモデル型は、①を支援する民間サービス(支援者)が対象の助成です。中小企業のイノベーション創出を積極的に推し進めるために、斬新なアイデアや革新的なビジネスモデルの構築に特化しています。
申請方法
申請方法は、まず各公募締切までに必要書類を申請するところからはじまります。
なお、はじめの申請から最後の報告までの手続きは全て電子化で行われます。
令和4年(2022年)の概要・変更点
令和3年の補正予算案の成立に伴い、令和4年のものづくり補助金の概要も決まりました。
令和4年のものづくり補助金に関しては、2月中旬実施予定の10次公募より始まります。
ここでは、令和4年より補助金に新たなに盛り込まれる内容について解説します。
従業員規模に応じた補助上限額の設定
これまでは、一律で1,000万円としていた一般型の補助上限額が従業員規模に応じて変動することとなりました。
具体的な従業員数と補助額の関係は以下の通りです。
補助対象事業者の見直し・拡充
補助の対象となる事業者の見直しおよび拡充も図られます。
これまで、ものづくり補助金の対象となる企業は、資本金3億円以下であることが条件でしたが、令和4年からは新たに特定事業者として資本金10億円未満の企業も対象となりました。
また、企業再生に取り組んでいる企業に対しては、従来1/2であった補助率を2/3まで引き上げることで支援を手厚くしています。
回復型賃上げ・雇用拡大枠の新設
経営状況が厳しい企業に対しては、賃上げや雇用拡大といった生産性向上に向けた各種取り組みを支援するための回復型賃上げ・雇用拡大枠が新設されます。
対象となる事業者は、一般型の要件を満たしていることに加えて、前年度の事業年度の課税所得がゼロでなければなりません。
要件は、以下の4条件を満たす事業計画を策定していることです。
デジタル枠の新設
DX(デジタル・トランスフォーメーション)に関する製品やサービスの開発、技術を活用した生産プロセスの改善などに取り組む企業を対象とした、デジタル枠が新たに設けられます。
デジタル枠の補助率は2/3です。
なお、デジタル枠申請に伴い、これまでの「低感染リスク型ビジネス枠」は終了となります。
要件は、以下の条件をすべて満たす事業計画を策定していることです。
グリーン枠の新設
温室効果ガスの排出削減に関する各種製品やサービスの開発、炭素生産性控除に関する生産プロセスの改善などに取り組む企業を対象とした、グリーン枠も新たに設けられます。
グリーン枠の補助率は2/3となっており、補助上限額は最大で2,000万円です。
要件は、以下の条件をすべて満たす事業計画を策定していることです。
ものづくり補助金の注意点


ものづくり補助金の導入では、次の3つの点に注意しましょう。
審査基準
ものづくり補助金は専門家も目を通す審査が行われます。そのため、本事業を行う上でのしっかりした目的意識や事業計画が必要です。基本的な審査項目は次の通りです。
項目 | 内容 |
---|---|
技術面 | 革新性、目標の明確さ、課題解決の優位性、技術的能力 |
事業化面 | 事業実施体制、市場ニーズ、事業化スケジュールの妥当性、費用対効果 |
政策面 | 地域経済への波及効果、ニッチトップとなる潜在性、環境配慮性、新型コロナウイルス対応の有効性(特別枠の場合) |
なんとなくイメージした革新的なものではなく、事業としてしっかりと運営できることが大切なポイントとなるでしょう。
申請前後の業務量
ものづくり補助金は、補助金としては比較的に多額です。そのため、申請に必要な書類作成、必要書類は決して少なくありません。
また、採択された後も、補助事業実施後の検査や報告などが複数回設けられています。補助金を取り扱う担当者が必要になる可能性があるため、公募内容や手順については、事前にしっかりと検討する必要があるでしょう。
場合によっては補助金の返還義務あり
補助金の交付後は、5年間の事業報告が必要です。補助金の対象としていた設備を勝手に処分したり、補助金を別の経費に利用したりすることがあれば、補助金の返還を求められることもあります。制度の内容を十分に理解して取り組むようにしましょう。
まとめ
ものづくり補助金は、交付金の上限も高額で補助率も高い制度です。何らかの新しい取り組みを導入したいと考えている工務店にとっては、思い切った設備投資を行うことも可能です。
しかし、採択率は決して高いとはいえない制度でもあるため、申請時の事業計画書などの種類作成が大きく影響する可能性があります。公募内容をしっかりと理解して、革新的な運営のためにぜひ積極的に検討してください。
また、ものづくり補助金を活用すればIT化を進めてはいかがでしょうか。
一般型・グローバル型は、中小企業・小規模企業が取り組む革新的サービス開発や試作品開発、生産性プロセスの改善を進めるために必要な設備投資などに支援する補助金です。グローバル展開型では、海外直接投資や市場開拓、インバウンド市場開拓などへの取り組みに特化します。