工事台帳は自社の経営利益を把握するだけでなく、建設業法上の経営事項審査にも必須となります。
詳細事項を記載し、なおかつ保管義務を守るためにはリソースが必要です。
しかし、人材不足で工事台帳の作成・管理に割ける人員が足りない事業者もいるでしょう。
この記事では工事台帳と建設業法の関連性や建設業者が抱える工事台帳作成の課題と解決策を紹介します。
目次
工事台帳とは
工事台帳とは、工事ごとの原価を集計した台帳です。
工事ごとに取引明細を記録していくため、その会社がどのような工事を受注し、どの程度の利益を上げているかがわかります。
工事台帳には以下4つの項目を記録し、工事原価の把握や進捗管理、経営状況の判断のために利用されます。
- 材料費…工事で使用する材料の仕入れ費用
- 労務費…工事現場で働いている人の人件費(自社で雇用している人員に限る)
- 外注費用…下請業者や外部の職人などへの費用
- 経費…工事現場の光熱費、機械のレンタル料、事務員の給与等
建設業法において記載項目の定めはありませんが、費用以外には以下のような項目を記載します。
- 工事名
- 工期
- 現場名
- 担当者
- 請負区分
工事台帳は建設業法で作成必須
工事台帳の作成は建設業法で定められている経営事項審査に必須の書類です。
建設業法上経営事項審査を受けないと、公共工事を請け負うための競争入札に参加できません。
経営事項審査では以下の項目が審査されます。
- 経営状況
- 経営規模
- 技術力
- その他の審査項目(社会性等)
上記審査の有効期限は1年7か月であり、毎年審査が必要です。
帳簿の保管義務は5年間
建設業者は、営業所ごとに建設工事請負契約に関する事項などの営業に関する帳簿をつけ、なおかつ5年間保存しなければなりません。
保管は本社で統括してすることは許可されておらず、営業所ごとの保管が義務づけられています。
この帳簿に施工体制台帳等または契約書のコピーなどを添付する必要があるため、台帳の作成は建設事業者にとっては必須です。
元請業者の台帳保管義務は10年間
発注者から直接工事を請け負う元請業者の場合は、営業所ごとに10年間帳簿の保管が必要です。
その際は以下の書類も合わせて保管しなければなりません。
- 元請工事の完成図
- 発注者と工事内容について打ち合わせした議事録・記録
- 施工体系図(施工体系図の作成条件に当てはまった場合)
税務調査の際にも工事台帳が必要
建設業法に定められているわけではありませんが、工事台帳を作成しておくと税務調査の際に協力的であると好印象が得られます。
税務調査の際に台帳があれば、健全経営していることの証左となり、また調査がスムーズです。
反対に台帳のない企業は脱税の疑いが濃厚と判断され、調査に時間がかかったりかなり厳しい調査を受けることとなります。
自社の経営状況を客観的に判断するためにも、工事台帳は必ず作っておくべきです。
そのほか工事台帳の作成は、各工事の利益率や収支の把握にも役立ちます。
工事台帳の概要・使用目的について詳しく知りたい方は、以下の記事も参考にしてください。
公共・民間問わず施工体制台帳等の作成が義務づけられている
工事台帳と同じく、施工体制台帳も作成が義務とされています。
仮に公共事業を直接請け負う事業者でないとしても、以下の条件に当てはまる場合は施工体制台帳等の作成が義務づけられています。
- 下請負契約の総額が4,500万円(建築一式工事の場合は7,000万円)以上
- 公共工事発注者※からH27年4月1日以降に直接建設工事を請け負った建設業者が当該工事に関して下請契約を締結した場合
施工台帳等の作成範囲は、三次下請けまでおよびます。
違反者は営業停止処分のおそれ
仮に施工体制台帳等の作成義務を怠ったり、虚偽の台帳を作成した場合は7日以上の営業停止処分となる可能性があります。
事業者は施工台帳等の作成義務があるかどうかを慎重に見極めましょう。
建設業者が抱える工事台帳の作成・管理における問題点
工事台帳の作成は建設業者にとって重要業務のひとつですが、台帳の作成や管理において課題を抱えている事業者が多いです。
具体的には、工事台帳の作成には以下の課題があります。
建設事業者は人手不足が問題となっており、リソースの不足が業務の滞りや長時間労働などに繋がっているケースが多いです。
まずは問題を把握した上で、工事台帳の作成・管理の課題解決につなげましょう。
詳細な記載項目
工事台帳は記載項目が非常に多く、作成自体に時間がかかります。
工事請負契約においては未成工事支出金・工事原価を4つの項目に振り分け記録し、原価・粗利益額を把握します。
工事は天候の影響やトラブルによる計画変更などが生じやすく、会計が特殊です。
台帳の記載項目にミスがあると正確な利益が把握できなくなるためミスが許されませんが、ミスなく詳細な項目を記載するのみで時間がかかります。
人手不足
工事台帳の作成は企業によりますが、経理部門が担当することが多いです。
しかし、中小規模の工務店や建設業者は経理担当が1〜2人しかおらず、業務負荷が偏りがち。
経理担当者が休みの日には工事台帳作成が滞ってしまうケースもあるでしょう。
人手が足りないため業務負荷がかかり、またほかの人へ業務を分担することも難しいため、工事台帳の作成が大変という負のループから抜け出せません。
管理コスト
建設業法において定められている保管義務を守るために、管理コストもかかります。
台帳・帳簿はデータで保管できますが、電子保管する際にもスキャン・タイムスタンプの付与などの手順を踏まなければなりません。
紙ベースで台帳を保管する場合は、鍵付きキャビネットの用意・定期的な整理のためのリソースが必要です。
人手不足が問題となっている建設事業者が、管理のために十分な人材を割けないこともあるでしょう。
公共工事と民間工事で異なるルール
公共工事と民間工事では、工事台帳の作成ルールが異なります。
公共工事では金額を問わず下請発注があれば、必ず作成が必要です。
一方で民間工事の場合は、下請発注金額の総額が4,500万円以上(建築一式工事の場合は7,000万円)以上の場合にのみ作成が必要となります。
民間工事を主に受注していた建設業者が、公共工事へ入札する際には、以上の違いにも気をつけなければなりません。
【サンプル付き】工事台帳の書き方
工事台帳の書き方に様式はありませんが、上記のように細かく記載する必要があります。
自社で把握しやすいように工事コードや工事名称、工期などを書き込んだうえで、請求履歴と入金履歴を上部へ記録しましょう。
- 材料費…工事で使用する材料の仕入れ費用
- 労務費…工事現場で働いている人の人件費(自社で雇用している人員に限る)
- 外注費用…下請業者や外部の職人などへの費用
- 経費…工事現場の光熱費、機械のレンタル料、事務員の給与等
費用は上記の4つの分類を参考にし、仕入れ先の情報と金額を詳細に書き込みます。
敵要には費用の詳細を記載し、後で見返した際に「何の費用かわからない」ということがないようにしましょう。
また、経費の場合は摘要ではなく経費内容という項目を作り、その横に詳細を記載してください。
建設業法に基づき工事台帳を作成・管理する方法
建設業法の規定に則り工事台帳を作成・管理する方法を2つ紹介します。
紙面での台帳作成・管理は可能ですが、作成・保管コストがかかりすぎるためおすすめしません。
電子化データとして工事台帳を保管するために、この2つの方法で作成するといいでしょう。
工事台帳作成システム
工事台帳作成から管理までを効率化するために、工事台帳作成システムの導入をおすすめします。
工事台帳作成システムを導入するメリットとデメリットを比較しましょう。
工事台帳作成システムを利用すれば、システム上で保管してある原価データを利用し、速やかに台帳の入力作業ができます。
作成した工事台帳はオンラインクラウドに保管され、情報共有もスピーディです。
工事台帳の出力もワンクリックで可能であり、また必要なら工事台帳のカスタマイズも直感的に操作できます。
また工事台帳作成システムの操作履歴はログがすべて残るためバックアップが自動で取れ、なおかつ改ざんの抑止力としても機能するでしょう。
デメリットとしては導入コストがかかること、またシステム導入後に操作方法などの研修が必要であることです。
費用面が気になる方はエクセルで工事台帳作成を始め、機能に不足を感じた場合はシステムへ移行するといいでしょう。
エクセル
工事台帳はエクセルで作成できます。
エクセルで工事台帳を作成するメリットとデメリットを比較してみましょう。
すでにエクセルを使用して各種データを管理している建設事業者も多いため、システム導入コストを削減できます。
なおかつ現場も使い慣れたソフトでの台帳作成となるため、新システムの導入よりも混乱なく台帳作成や管理を始められるのがメリットです。
エクセルは表計算ソフトであり、SUM関数を利用すれば入力した原価の計算が簡単にできます。
工事台帳のテンプレートを1から作成する自信がない方は、「AnyONE」が提供している便利なエクセルテンプレートを使用すれば、すぐに工事台帳作成ができるでしょう。
ただしエクセルはオンライン共有に優れておらず、更新事項が即座に関係部署に共有されません。
作成した台帳の共有はメールで各部署へ通達する必要があるため、余計な工数が増えることとなります。
また改ざんができてしまい、工事台帳の管理保全を完璧にこなすことはできないでしょう。
改ざん防止のためにPDF化する必要がありますが、また工数がひとつ増えることとなります。
エクセルへの数値入力は手作業であるため、入力ミスも起こり得るでしょう。
数式やマクロを通じて原価のマスターデータを引用する方法もありますが、数式やマクロを扱える人員が限られる場合は属人化の解消にはなりません。
工事台帳についてよくある質問
工事台帳の書き方や建設業法上の扱いについて、よくある質問をまとめました。
まとめ
工事台帳作成は建設業法の経営事項審査に必要なだけでなく、自社利益の把握にも役立ちます。
工事台帳は作成および保管義務が法律で定められているため、正確な作業および管理コストも考えなければなりません。
中小規模でリソースが不足している事業者にとって、詳細な工事台帳の作成と管理を両立することは難しいでしょう。
そのような事業者におすすめしたいのが、工事台帳作成ソフトの導入です。
しかし、どのような工事台帳作成ソフトを選べばいいかわからない方もいるでしょう。
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