工事原価における労務費とは、人件費の一種です。
例えば、工事にかかわる人員の人件費や賞与などが該当します。
建設業は工事にかかわる人員が非常に多く、正しい計算が難しいです。
正確な労務費の計算ができなければ、自社の工事原価の正しい把握ができません。
この記事では工事原価の労務費の概要や労務費管理の重要性、労務費率の計算方法、労務管理を効率化する方法を紹介しています。

目次
工事原価の労務費とは

工事原価における労務費とは、特定の作業を完了するために発生する人件費の一部です。
労務費と人件費を完全に混同している方も多く、いざ違いを聞かれるとわからないこともあるでしょう。
ここから労務費の概要と人件費との違いを解説します。
しっかり労務費とは何かを理解したうえで、原価管理や積算に役立てましょう。
労務費の内訳
労務費の内訳は以下に分類されます。
- 賃金
- 雑給
- 賞与
- 退職給付金
- 法定福利費
賃金
賃金とは、製造部門の従業員の給与です。
建設業においては、工事施工をしている職人に対して支払われる給料を指します。
会社の社長が自ら現場に出て働いている場合は、役員報酬と労務費を振り分けて計上する必要がある点に注意しましょう。
雑給
雑給とは、工事部門で時給で働くアルバイト・パートタイマーに対して支払われる給料のことです。
例えば、日雇で1日または期間限定で工事にあたる職人の給与も雑給にあたります。
賞与
賞与とは、工事現場にかかわる従業員の賞与・扶養手当、通勤手当などの各種手当全般のことです。
退職給付金
退職給付金とは、工事現場にかかわる従業員の退職金に備えて積立るお金のことです。
法定福利費
法定福利費は、社会保険料や雇用保険の事業主が負担する分のことです。
労務費と人件費の違い
工事原価の労務費と人件費は混同されることが多いです。
労務費と人件費を明確に区分していない、工務店や小規模事業者も珍しくありません。
厳密には、労務費は人件費のひとつとなっています。
労務費は工事にかかわった人に支払われる賃金や賞与、福利費などの総称です。
人件費は、その他企業の事務方や工事に直接かかわりのない人たちに対して支払われる賃金など全般を指します。
人件費と労務費は、下記のように理解しましょう。
- 人件費:企業において雇用する人員の給与の総称
- 労務費:工事現場にかかわる人に対して支払われる限定的な賃金やそれに付随する経費
労務費を含めた積算の概要について知りたい方は、以下の記事で詳しく紹介しています。
労務費と外注費の違い
労務費は自社で常用している職人や作業員に対して工事中に支払う賃金や経費です。
一方で外注費は、工事中に一時的に作業を外注した際に、外注先から請求される費用です。
工事を外注先の事業者へ材料の調達から委託するケースで発生します。
なお、自社で材料費を負担して工事部分のみを委託する場合、人員不足で急遽職人を派遣してもらった場合は「労務外注費」として計上します。

労務費の種類と計算方法

労務費は、下記2つの種類に分けられます。
それぞれの概要を解説したうえで、計算方法も説明します。
直接労務費
直接労務費とは、工事に直接かかわる作業をおこなう人に対して払われる賃金です。
つまり、工事現場へ行き作業をしている作業員に対しての賃金を意味します。
作業員によっては複数の工事現場を担当することもあるため、賃金を直接作業時間で割った賃率と合わせて計算するのが一般的です。
賃率=直接工の賃金÷直接作業時間
直接労務費=賃率×施工完了までの時間
直接労務費は、上記のような計算式で算出します。
直接工の賃金において移動時間などは間接労務費に該当するため、直接作業した時間を記録して算出しなければなりません。
間接労務費
間接労務費とは、直接労務費にあたらないものすべてを言います。
具体的には、下記のような費用です。
- 直接工が製品を運搬・機械のメンテナンスをしている間の賃金
- 間接作業のみを担当する作業員の賃金
- 業務時間中に作業していない間に発生する賃金
- 休業手当・有給手当
- 工事現場監督・事務職員に対して支払われる賃金
- 賞与・通勤手当などの各種手当
- 退職金の積立
- 福利費
間接労務費は、下記の計算式で算出します。
間接労務費=労務費-直接労務費
直接工に対して払われる賃金・費用のうち直接労務費にあたらないものはすべて間接労務費となります。
工事原価における労務費の管理の重要性

工事原価において労務費の管理は重要です。
なぜ労務費の管理が重要なのか理由を解説します。
労務費の管理が何の役に立つかを理解したうえで、原価管理をおこないましょう。
2024年4月より時間外労働時間の上限規制
2019年4月に施行された改正労働基準法で、36協定で定める時間外労働の上限規制の見直しがおこなわれました。
建設業は即時対応が難しいため5年間の猶予が与えられましたが、2024年4月から上記規制が適用されています。
プログラムの内容の中に”週休2日制の導入”、”労務費等の補正”が含まれており、建設業は今後一層労務費の管理を徹底しなければなりません。
精度の高い見積り
労務費を徹底管理しておくと、精度の高い見積りにつながります。
見積り額が完成工事高と大きく差が出た場合、請求額に相違が生じたり、利益率の減少につながるでしょう。
日頃から労務費管理を徹底し、賃金の管理ができていれば見積りの際に過去データを参照することで、新規見積りの精度も上がります。
クライアントにとっても自社にとってもメリットになるので、労務費の管理は重要です。
長時間労働・労働環境の改善
工事原価における労務費を把握することで、コストだけでなく、自社の労働環境が可視化できます。
建設業における長時間労働は政府も問題視しており、働き方改革で是正が求めらている点です。
長時間労働の是正は労働環境の改善につながるだけでなく、コスト削減にもつながります。
メリットが見えていれば行動が起こしやすくなり、長時間労働を削減する具体的な施策を考えやすくなるでしょう。
高騰する労務費への対応
「建設工事を発注する民間事業者・施主の皆様に対するお願い-一般社団法人 日本建設業連合会」によると、労務費は年々高騰しています。
日本政府の賃上げ方針、労務単価の引き上げの影響もあり、建設技能労働者の労務費は2020年度に比べて、10%上昇しました。
建設業界の待遇改善という目的に適った内容ではありますが、これに伴い建設事業者は自社利益率の低下を懸念しなければなりません。
人件費が上がれば工事原価が上がるため、利益率は下がります。
自社利益率を守りつつ、建設業界の待遇改善へ貢献するためには労務費の徹底管理をし、コストとなる部分は削減しなければなりません。

工事原価における労務費率とは

請負契約金額に対する労務費の割合を労務比率と言います。
賃金総額÷請負総額×100
労務費率は労災保険料の総額を決めるためにも割り出す必要があり、必ず算出しなければなりません。
一般的には労災保険料の計算は「賃金総額×労災保険率」で計算されます。
しかし建設業は下請負人が多く正確な計算が困難であるため、特例として「賃金総額×労務費率」での算出が許可されています。
厚生労働省が定める労災保険率表(平成30年4月1日)は下記の通りです。
業種 番号 | 事業の種類 | 労災保険率 |
---|---|---|
31 | 水力発電施設、ずい道等新設事業 | 62 |
32 | 道路新設事業 | 11 |
33 | 舗装工事業 | 9 |
34 | 鉄道又は軌道新設事業 | 9 |
35 | 建築事業(既設建築物設備工事業を除く。) | 9.5 |
38 | 既設建築物設備工事業 | 12 |
36 | 機械装置の組立て又は据付けの事業 | 6.5 |
37 | その他の建設事業 | 15 |
※建設事業のみ抜粋
※単位は:1/1,000
工事原価の労務費を抑えるコツ

労務費は年々引き上げられており、労務費だけでも莫大なコストとなります。
なるべく労務費を抑えて、自社利益を守るコツを紹介します。
人員配置の見直し
工事原価で労務費が占める割合を少しでも減らすには、人員配置の見直しが必要です。
工数の少ない箇所へ必要のない人員を配置していないか、経験日数の浅い職人ばかりのセクションがないか確認しましょう。
上記のような課題箇所を改善するだけで作業効率が上がり、労務費を削減できるはずです。
労務費を外注費へ置き換え
労務費を外注費へ置き換えることで、職人を常用せずに済むため人件費を削減できます。
一定期間のみ外注の職人へ依頼し、労働力が確保できるためです。
ただし、外注ばかりになると自社技能への信頼度が落ちるというデメリットがあります。
バランスを考えながら、外注の職人へ仕事を依頼して労務費を下げるようにしましょう。
DX機器の導入
工事現場での作業にデジタル技術を活用すれば、省人化につながり、労務費を下げられます。
デジタル機器の導入コストはかかりますが、長期的な目線で見ればコスト改善に役立つでしょう。
たとえば、施工管理が現場へ行く時間を削減するために遠隔臨場を実施すれば、現場への移動時間の間に事務作業を済ませることができ、残業時間を削減できます。
工事原価の労務費を効率的に管理する方法

建設業の労務費計算は、下請負人の多さもあり非常に複雑で正確な計算が困難です。
計算作業に時間がかる、ミスが多いという悩みを抱えている方も多いでしょう。
効率的に工事原価の労務費を計算する方法を紹介します。
労務費管理を徹底すれば労働環境の改善、経営状況の把握・向上を目指せます。
ぜひ参考にして、効率的かつ正しい労務管理をおこなってください。
エクセル管理
工事原価の労務費は、エクセルで管理できます。
エクセルで工事原価および労務費を管理するメリットとデメリットを比較してみましょう。
エクセル管理はコストがかからず、すぐに使い始められるのがメリットです。
エクセル自体が表計算ソフトであるため、数式やマクロを利用すれば、効率化も目指せるうえ、集計も取りやすいでしょう。
工事原価・労務費管理表を自作する自信がない方でも、AnyONEが提供している便利なテンプレートを利用すれば簡単に労務費の管理を始められます。
ただしエクセルは工事原価管理専用のソフトではないため、完璧な原価管理を目指す場合は不足を感じる可能性があります。
テンプレートを1から自作する場合は数式やマクロの専門知識が必要です。
またエクセルはオンライン共有に優れておらず、外部から労務費の概要を確認できないのもデメリットといえます。
さらにエクセルは入力作業は手入力するため、入力ミスやファイルの誤操作による削除のリスクがあるでしょう。
建設業向け労務管理・原価管理ソフト
労務費管理を効率化するためには、建設業向け労務管理ソフト導入がおすすめです。
建設業の労務費は特殊であるため、一般的な労務管理ソフトよりも建設業向けに作られた労務費管理ソフトを利用してください。
建設業向け労務管理ソフトを導入すれば、複雑かつ項目が多い労務費の管理を簡易化できます。
業務フローに合わせやすく、工事現場監督だけでなく経理部・人事部作業も楽になるでしょう。
さらにソフトによってはアプリ版・ブラウザからの閲覧が可能で、労務費確認がいつでもおこなえます。
労務費管理以外に商談管理や工程管理、アフター管理まで一元化できるシステムもあり、情報の統合によって自社業務・情報共有を効率化できるでしょう。
おすすめの工事原価管理ソフトは以下の記事でまとめています。
まとめ
建設業における労務費は、工事原価管理の中でも大切な項目です。労務費の概要を理解したうえで、その管理の重要性を認識して管理を徹底しましょう。
労務費管理は複雑で効率が落ちがちですが、エクセルまたは建設業向け労務費管理ソフトの導入で業務効率を上げられます。
しかし、どのようなシステムを導入すれば良いか迷っている方もいるでしょう。