働き方改革の流れは年々強まっており、国土交通省は発注する工事を原則として、完全週休2日制にすると発表しています。
しかし「本当に建設業で完全週休2日制が定着するのか」と、疑問を持つ方もいるでしょう。
本記事では、完全週休2日制の考え方、完全週休2日制を実現するための国交省の対応、建設業で完全週休2日制が難しい理由と実現する方法について解説します。
目次
建設業界における週休2日制度はいつから義務化されるのか?
結論からいうと建設業界における週休2日制度は義務化されていません。
しかし、義務化されていないからといって週休2日制を導入しなくて良いと考えていると今後工事の受注や人材確保が困難となります。
2024年4月より適用される時間外労働の上限規制も関係し、週休1日で今までのように長時間労働を続けると上限規制を超えてしまうリスクが高いです。
2024年4月以降の時間外労働上限規制は罰則付きであり、事業者は罰金または懲役刑を受ける可能性があります。
以上のことを考えると建設業界は早めに週休2日制導入への体制を整える必要があることが明らかです。
時間外労働の上限規制は2024年4月から
建設業界でも時間外労働の上限規制が、2024年4月から始まります。
時間外労働の上限規制とは、36協定を結んでいたとしても時間外労働の原則が、月45時間かつ年間360時間までと制限されることです。
36協定について詳しく知りたい方は下記の記事をご確認ください。
ここでは、以下の3つについて解説します。
完全週休2日と週休2日の違い
完全週休2日制とは、1年を通して毎週必ず2日の休みがあることです。
建設業であれば、土日お休みにしている会社が多いでしょう。
ただし週の中に休日がある場合は注意が必要です。
土日を休日に設定して、完全週休2日制としている会社の例で考えてみましょう。
1週間のうち祝日があり、祝日を休みにする場合は土曜日と日曜日どちらかを出社日にしても、完全週休2日制と言えます。
土日お休みにしている会社であっても、祝日の考え方で表記は下記のように異なります。
- 完全週休2日制(土・日・祝):祝日があれば土曜と日曜どちらかは出社日となる
- 完全週休2日制(土・日)祝日:毎週土曜・日曜、祝日が必ず休める
そのため会社の就業規則の変更や募集要項を作成する際は、表現の違いに注意しましょう。
週休2日の現状
国土交通省のデータによると、週休2日制を実現できている現場はまだ少なく、全体の工事で技術者、技能者ともに1割程度となっています。
技術者 | 技能者 | |
---|---|---|
週休2日程度 | 11.7% | 12.8% |
4週7休程度 | 12.7% | 11.8% |
4週6休程度 | 42.2% | 38.5% |
4週5休程度 | 18.5% | 19.1% |
4週4休程度 | 14.1% | 16.9% |
多くの現場では4週6休程度がメインとなっており、週休2日制の実現を推奨してはいるものの、現状が追いついていない状態です。
国土交通省の完全週休2日の考え方
一般的な完全週休2日制の考え方については先述した通りです。
ここでは国土交通省の完全週休2日制の考え方について解説します。
国土交通省は「現場閉所率」という考え方を採用しています。
現場閉所率とは、1か月のうち現場が休んでいる割合です。
1か月を28日(7日×4週)とした場合、完全週休2日だと現場閉所率は、およそ28.5%(8日÷28日×100)となります。
【参考】令和4年度 週休2日制適用工事の概要-国土交通省
現場閉所率が28.5%に達していないと、完全週休2日制度は認定されないため注意してください。
ただし大雨・直接などによる予定外の現場閉所日についても、現場閉所の日数にカウントします。
建設業の週休2日制が求められるようになった背景
なぜ建設業にも週休2日制が求められるようになったのか、その背景を説明します。
働き方改革関連法
2019年より施行されている働き方関連法案では、時間外労働の上限規制を罰則付きでsだめています。
しかし、建設・運送業は業務の特殊性より5年間の猶予が与えられ、2024年4月より上限が適用されることとなりました。
厳密に言えば週休2日制は義務ではありませんが、労働時間の上限規制を守ろうと思うと週休2日制を導入しなければ、現実的に上限規制を守れないのが現場です。
建設業界全体人手不足や高齢化への懸念
また政府は建設業全体の人手不足や高齢化を懸念しており、このままでは建設業の労働人口が激減することを危惧しています。
その原因として慢性的な長時間労働やきつい仕事というイメージ、女性が働きにくい環境を取り上げ、より労働環境を改善して労働力を確保するために週休2日制を推進しています。
建設業で完全週休2日制が難しい理由
建設業で完全週休2日制が難しい理由は以下の3つです。
職人さんの収入が減るため
1つ目の理由は、職人さんの収入が減るためです。
職人さんの多くは今でもを日給制が多く、働いた日数分だけ収入が増える仕組みとなっています。
休日が増えると収入が減ってしまうため、稼ぎたいと考える職人さんは完全週休2日制を望んでいません。
そのため職人さんの収入も月給制にする、単価を上げて完全週休2日制導入前と同等の収入を保証するといった対策が必要です。
工期が厳しいため
2つ目の理由は工期が厳しいためです。
建設業では元々短い工期で発注されるケースが多く、工期に間に合わせるため、残業や休日出勤をせざるを得ませんでした。
そのため、完全週休2日制を実現するためには、これまで以上に余裕を持った工期の設定が必要です。
民間工事が受注しにくくなるため
3つ目の理由は、民間工事が受注しにくくなるためです。
完全週休2日を導入している会社と週休1日の会社とでは、発注者に提示できる工期と金額に差が出ます。
一般的に現場を4週8休にすると、これまでよりも工期が伸び、経費もかかります。
そのため、完全週休2日を導入している会社と週休1日の会社が、入札に参加すれば週休1日の会社の方が受注する可能性は高いです。
建設業で完全週休2日制を根付かせたい場合は、民間工事であっても4週8休を実現できるような工期と予算を提示しなければならないと言ったルールを定める必要があるでしょう。
建設業で週休2日制を導入するメリット
週休2日制の導入は建設業者にとって非常に難しい課題ですが、メリットを意識すれば前向きに導入を検討できるはずです。
若手人員雇用の促進
建設業にとっての課題である継承者不足も、週休2日の導入で解消できる可能性があります。
若手の入職者が少ない理由の1つに、建設業の労働環境の悪さがあるためです。
今の若者は特にプライベートと仕事のバランスを意識する世代であり、従来のように毎日仕事に明け暮れることを美徳としません。
週休2日でプライベートも確保されるとアピールできれば、若手の入職者が増える可能性は大いにあるでしょう。
建設DXの加速
建設業が週休2日を導入するためには、建設DXが欠かせません。
従来の紙文化や手作業を継続していては時間外労働の削減は叶わないでしょう。
しかし、事業者側がDXを推進したいと思っても従業員や職人の反発により難しい面があったはずです。
そこで週休2日制の実現を目標に掲げ、その達成にDXが必要だと社員に伝えてDX推進を理解してもう方法をおすすめします。
週休2日制は建設業で直接雇用されている社員にとっては大きなメリットのため、DX導入に対して理解を示す可能性が上がるでしょう。
労働環境の改善によるブランディング向上
建設業自体についているブラックなイメージを、週休2日制により改善できる可能性があります。
若手労働者の確保だけでなく、企業自体のブランディングがあがる効果が期待できます。
たとえば、建設業界大手の鹿島建設などでは週休2日の導入などを打ち出し、建設業界の中でもホワイトであるというイメージ獲得に成功しています。
建設業界で週休2日制導入できていない企業が多いうちにいち早く導入開始することで、世間に対してのイメージが良くなるでしょう。
建設業の週休2日制に対する国土交通省の対応
現場において完全週休2日制はまだまだ浸透していません。
そのため国土交通省は下記3つの対応をおこなっています。
週休2日応援ツール
国土交通省は「働き方改革・建設現場の週休2日応援サイト」で週休2日制応援ツールを公開しています。
- 工期設定支援システム
- 発注者の取り組み情報の共有
工期設定支援システムとは歩掛かり毎の標準的な作業日数や、標準的な作業手順を自動で算出するツールで、工程管理システム未導入の業者でも無料で利用できます。
また発注者による工期に関しての取り組みを随時共有しており、週休2日制を導入するための発注者側の工夫を共有する仕組みを構築、公開しています。
発注工事
国土交通省は、発注する工事の方式を以下のいずれかへを基本に変更します。
- 「現場閉所による週休2日制適用工事」の発注者指定方式
- 「週休2日交替制モデル工事」の発注者指定方式
「現場閉所による週休2日制適用工事」の発注者指定方式とは、工事期間中は4週8日以上の現場閉所に取り組まなければならない方式です。
つまり発注者が週休2日に取り組むことを指定する方式とも言えます。
「週休2日交替制モデル工事」の発注者指定方式とは、工事期間中は現場を閉所せず、技能者や技術者が交代しながら4週8日以上の休日を実現する方式です。
つまり発注者が中級2日交代制に取り組むことを指定する方式とも言えます。
国土交通省が発生する工事は、今後上記いずれかの方式が原則です。
ただ緊急性を有する工事などは、例外的に週休2日対象工事とはしないことも可能です。
積算方法の変更
また発注者が週休2日制を指定する工事の場合は、現場の閉所状況に応じて経費に補正係数を乗じることができます。
補正係数は『令和4年度 週休2日制適用工事の概要』によると下記の通りです。
現場閉所による週休2日制適用工事の補正係数
4週8休以上 | 4週7休以上、4週8休未満 | 4週6休以上、4週7休未満 | |
---|---|---|---|
労務費 | 1.05 | 1.03 | 1.01 |
機械経費(賃料) | 1.04 | 1.03 | 1.01 |
共通仮設費率 | 1.04 | 1.03 | 1.02 |
現場管理費率 | 1.06 | 1.04 | 1.03 |
週休2日交替制モデル工事の補正係数
4週8休以 | 4週7休以上、4週8休未満 | 4週6休以上、4週7休未満 | |
---|---|---|---|
労務費 | 1.05 | 1.03 | 1.01 |
現場管理費率 | 1.03 | 1.02 | 1.01 |
ただし決められた現場閉所率を達成できないと、請負金額の補正分を減額変更されるため注意してください。
加えて請負金額の補正分を減額変更する際は、4週6休以上の閉所率があったとしても、上記表に示した補正はおこないません。
余裕期間制度の活用
柔軟な工期設定のために「余裕期間制度」も活用します。
余裕期間制度では、契約ごとに工期の30%を超えないかつ4か月を超えない範囲内で余裕期間を設定し、工事開始日もしくは工事完了期限日を発注者が指定または、受注者が選択できる制度です。
余裕期間では下記の作業がおこなえます。
- 労働者の確保
- 現場に搬入しない資材の手配
- 工事看板の作成
- 上記作業の関係者との調整
一方で余裕期間ではおこなえない作業もあります。
余裕期間内におこなえる作業とおこなえない作業は、発注者による見解が分かれる場合があるため、詳しくは発注者に直接ご確認ください。
建設業で完全週休2日制を実現する方法
工建設業で完全週休2日制を実現するための最もおすすめの方法は、工務店向けの業務効率化システムの導入です。
その他工務店が対応できる対処法を紹介します。
業務効率化システムの導入
工務店向けの業務効率化システムは、以下の工務店業務に対応しているケースが多いです。
- 顧客管理
- 工程管理
- 見積り管理
- 原価管理
- 実行予算作成
- 入出金管理
- アフター管理
そのためあらゆる工務店業務の効率化が可能です。
より詳しく業務効率化システムについて知りたい方は書きの記事をご確認ください。
工期の見直し
工務店で対応できる週休2日制実現の対処法が、工期の見直しです。
工期に無理があればどうしても週休2日制の実現が難しく、労働時間の上限規制を守れません。
建設現場は天候の関係で作業ができない日も生じるため、余裕を持った工期を設定しましょう。
発注者側との相談
週休2日制の導入には、発注者側との相談も不可欠です。
これまでのような工期では対応できない旨を伝えて、理解を得るようにしましょう。
相談したうえで工期を延長したり、無理のない工期にて請負するようにしてください。
給与の安定性
これまでの建設業界では職人の給料は日当で支払われており、土日も働けば給料が発生するということから、土日に率先して出勤する職人も多くいました。
職人は給料が安定していないため、稼げるうちに稼いでおくという考えがあるためです。
この問題を解決するには、職人の給料システムの変革も必要となります。
月給制にして安定した給与を支給できるように、自社で直接雇用している職人がいる場合は契約を切り替えるなどしてみましょう。
まとめ
本記事では、完全週休2日制の考え方、完全週休2日制を実現するための国交省の対応、建設業で完全週休2日制が難しい理由と実現する方法について解説しました。
完全週休2日制とは1年を通して、毎週必ず2日の休みがある状態です。
建設業では労働環境を改善させるために、業界全体で完全週休2日制の導入を目指しています。
今後は完全週休2日制を導入しないと、国土交通省の発注する工事に参加することが難しくなるでしょう。
加えて採用活動にも支障が出る恐れがあります。
そのため完全週休2日制を導入していない会社は、今のうちから準備を進めることをおすすめします。
しかし完全週休2日制を導入すると、仕事が終わらないため導入に踏み切れないと考える方もいるでしょう。
そのような方は業務効率化システムを導入して、業務の生産性を上げることがおすすめです。
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