地球温暖化が進む中、世界的に低炭素社会や脱炭素社会への移行が求められています。
使用する材料や施工方法、また建築物にあり方など環境に対する影響が大きい建築業界の担う役割は大きく、実際に近年建築業界において低炭素社会へ向けての取り組みが見られます。
そこで今回は低炭素社会について、下記2点を中心に、低炭素社会実現のための方策や実際の建築業界の取り組み事例などを紹介しながら解説します。
- 低炭素社会とは何か
- 建築業界における低炭素社会への取り組み
低炭素社会とは
低炭素社会とは、「二酸化炭素(CO2)の排出を限りなく削減・抑制した社会」を指す言葉です。
地球温暖化対策の1つとして主要な温室効果ガスであるCO2を削減する取り組みが世界的に実施されており、日本も2050年までに温室効果ガスの排出量を全体としてゼロにする、いわゆるカーボンニュートラル・脱炭素社会の実現を目指しています。
ここでは低炭素社会の内容と日本の取り組みについてもう少し深く理解するために、以下の項目について解説します。
- 低炭素社会の基本理念
- 低炭素社会に向けた12の方策
【参考】経済産業省 2050年カーボンニュートラルを巡る国内外の動き 令和2年12
低炭素社会の基本理念
低炭素社会の基本理念について、環境省は以下の3つを定めています。
- カーボン・ミニマムの実現
- 豊かさを実感できる簡素な暮らしの実現
- 自然との共生の実現
カーボン・ミニマムの実現
カーボン・ミニマムの実現とは、CO2の排出を最低限に抑えることとそのための配慮・努力を意味します。
このためには行政だけでなく産業界、そして国民が地球の有限性を意識して省エネルギー利用や資源生産性向上に積極的に取り組むことが必要です。
豊かさを実感できる簡素な暮らしの実現
豊かさを実現できる簡素な暮らしの実現とは、物質的な豊かさから精神的な豊かさへと移行し大量消費社会を脱することを意味します。
低炭素社会の実現のために大量消費を脱することは必要ですが、それと同時に生活の豊かさを損なわないために、「精神的な豊かさを重視する価値観の変化」も必要となります。
またそのような志向を実現するため、消費者だけでなく生産者もその意識を醸成させるモノ・サービスを提供することが求められます。
自然との共生の実現
自然との共生の実現とは、森林などの自然環境の保全・再生とそのための意識作りを意味します。
このためには保全や再生などの直接的な活動も第一に必要となりますが、それと同時にバイオマス利用の促進などによって自然と触れ合う機会を確保し、共生の意識を醸成していくことも必要です。
(※バイオマスとは、動植物を用いた再利用可能なエネルギー資源のこと。プランクトンや家畜のふん尿、木材などを指す)
低炭素社会に向けた12の方策
環境省は基本理念のほかに、「低炭素社会の実現に向けた脱温暖化 2050 プロジェクト」において低炭素社会を実現するための方策を提示しています。
低炭素社会に向けた方策は大きく分けると4つの部門から成り、全部で12の方策が存在します。
【参考】環境省 低炭素社会に向けた12 の方策 2008 年 5 月
- 民生部門
- 産業部門
- 運輸部門
- エネルギー転換部門
民生部門
民生部門では、一般の住宅やオフィスを対象に以下2つの方策が提示されています。
- 快適さを逃さない住まいとオフィス
採光や断熱性に優れた設計によるエネルギー消費の抑制と、減税・補助金制度による高環境性能住宅の普及を目標としています。 - トップランナー機器をレンタルする暮らし
レンタルやサービスによる高効率機器の導入促進を目標としています。
産業部門
産業部門では、農業や建築業などの産業界を対象に以下4つの方策が提示されています。
- 安心でおいしい旬産旬消型農業
ハウス栽培の削減や農業生産手法の改良によるCO2排出の削減や、CO2排出量表示などによる低炭素型農作物への意識醸成を目標としています。 - 森林と共生できる暮らし
住宅をはじめ公共建築物や家具、建築用基礎杭などさまざまなシーンで木材を活用することで森林との共生意識を醸成するとともに、国産林業の復活を目標としています。 - 人と地球に責任をもつ産業・ビジネス
低炭素型製品やサービスの需要による企業の低炭素化への移行と、金融投資などによる低炭素化の企業努力の支援を目標としています。 - 見える化で賢い選択
住宅やオフィスでエネルギーやCO2排出量を可視化するとともに、環境性能の高い製品の導入促進を目標としています。
運輸部門
運輸部門では、ロジスティクス・街づくりを対象に以下2つの方策が提示されています。
- 滑らかで無駄のないロジスティクス
SCM(サプライチェーンマネジメント)による生産量の最適化や輸送網の整備や高効率輸送車の導入による輸送の最適化を目標としています。 - 歩いて暮らせる街づくり
電動自動車の普及や交通整備、公共交通機関ネットワークによる利便性の高い街づくりを目標としています。
エネルギー転換部門
エネルギー転換部門では、電力業界やエネルギー業界を対象に以下4つの方策が提示されています。
- カーボンミニマム系統電力
高発電効率・低ロスや再生可能エネルギー・適切な原子力利用、そして送電時の損失低減による環境負荷の低減を目標としています。 - 太陽と風の地産地消
低コストな太陽光発電やシンボルにもなり得る風力発電の活用による地産地消の電力供給システム形成を目標としています。 - 次世代エネルギー供給
製造時の温室効果ガス削減や燃料電池の燃料となる低炭素型水素を主流化することを目標としています。 - 低炭素社会の担い手づくり
地球温暖化問題に関する知識や情報を教育などを含めて広く共有することで、低炭素社会を実現するスペシャリストを育成するとともに、国民レベルでも低炭素型のライフスタイルやビジネススタイルを浸透させることを目標としています。
建築業界における低炭素社会への取り組み
低炭素社会への取り組みはあらゆる部門・業界で実施されていますが、中でも住宅業界や建築業界は家庭・業務部門において鍵となる分野とされており、建築物は長期的な資産となるため早急な対応が求められています。
ここでは全国の建設業界の連合である日本建設業連合会が提示する、建設業界におけるCO2排出抑制の取り組みについて紹介します。
- 施工段階におけるCO2の排出抑制
- 設計段階における運用時CO2の排出抑制
【参考】経済産業省 2050 年カーボンニュートラルに伴うグリーン成長戦略 令和2年 12 月 25 日、一般財団法人日本建設業連合会 脱炭素社会 カーボンニュートラルを実現するために
施工段階におけるCO2の排出抑制
施工段階におけるCO2の排出抑制では、省燃費運転の励行や高燃費効率重機の採用などが行われています。
バックホー・ラフタークレーン・ダンプを対象に座学・実技での研修が行われており、燃費改善やCO2排出抑制につながるだけでなく重機の長寿命化や事故防止にも効果があるとしています。
設計段階における運用時CO2の排出抑制
設計段階における運用時CO2の排出抑制では、省CO2建物やサステナブル建築の推進が行われています。
サステナブル建築とは設計・施工・運用の各段階において省エネルギーや有害物質の排出などを図り、かつ周辺環境と調和しつつ将来にわたって生活の質を維持・向上させていく建築のことを指します。
建築業界の取り組み事例
最後に建築業界の実際の取り組み事例を以下3つ紹介します。
- システム・ツール導入によるCO2削減【鹿島建設】
- 設計による消費電力の削減【日建ハウジングシステム】
- LCCM賃貸集合住宅の開発【大東建託】
システム・ツール導入によるCO2削減【鹿島建設】
鹿島建設は、「環境データ評価システムedes」と「現場deエコ」というシステム・ツールを開発・導入することでCO2排出削減に取り組んでいます。
「環境データ評価システムedes」によって全工場全行程でのCO2排出量を月単位で把握・可視化できるとともに、「現場deエコ」によって工事規模に応じたCO2排出量削減計画を容易に検討できます。
設計による消費電力の削減【日建ハウジングシステム】
日建ハウジングシステムは、電力を「作り出し、効率的に利用し、蓄えられる」設計によってCO2排出削減に取り組んでいます。
マンション用エネファームの導入によって極力外部電力に頼らない暮らしを実現するとともに、LED照明やエネルギーの可視化によって住人に省エネ行動を促しています。
また太陽陽光発電を蓄電することで非常時のエネルギーセキュリティにも対応しています。
【参考】日建ハウジングシステム 低炭素社会に相応しい『低炭素建築物』への取り組み
LCCM賃貸集合住宅の開発【大東建託】
大東建託は、日本初の脱炭素住宅「LCCM賃貸集合住宅」を開発することでCO2排出削減に取り組んでいます。
「LCCM賃貸集合住宅」は再生可能エネルギーの利用・創出や発電効率・省エネ性能の向上により、建設・居住・解体といった建物のあらゆるフェーズにおいてCO2排出量をマイナスにする住宅です。
【参考】大東建託 日本初!脱炭素住宅「LCCM賃貸集合住宅」を開発
まとめ
今回は低炭素社会について解説しました。
低炭素社会に向けて建築業界が担う役割は非常に大きく、今後はより省エネや環境に配慮した建築が求められるとともに、効率的な業務遂行が求められます。
省エネについては一部次世代の技術やシステムが必要となりますが、業務効率化については既存のツールを導入することで簡単に改善できます。
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