工事請負契約書は、建設工事において欠かせない重要な文書です。
従来は紙ベースでの契約が一般的でしたが、近年のデジタル技術の進展と法制度の改正によって、電子化が進んでいます。
この記事では、工事請負契約書の役割や電子化のメリット、導入ステップ、注意点まで詳しく解説します。
電子契約の基本的な知識を身につけ、スムーズな導入ができるようにしましょう。
目次
工事請負契約書の役割と電子化
まず、工事請負契約書の基本的な役割と、その電子化について詳しく解説します。
工事請負契約書は具体的にどのような内容が含まれるのか、契約書の電子化がもたらすメリットについて見ていきます。
工事請負契約書の役割
工事請負契約書は、建設工事において契約当事者間の合意内容を明確にする文書です。
具体的には、以下のような項目と内容を含んでいます。
項目 | 内容 |
---|---|
契約当事者情報 | 請負業者と発注者の詳細 |
工事内容と範囲 | 具体的な作業内容とその範囲 |
工事代金と支払い条件 | 支払いのタイミングや方法 |
工期と工程計画 | 工事のスケジュール |
品質基準 | 求められる品質レベル |
保証と責任 | 保証期間や責任の範囲 |
変更と追加工事 | 変更が生じた場合の対応 |
解除条件 | 契約解除の条件 |
紛争解決 | トラブルが発生した場合の解決方法 |
これらの項目の記載により、工事中に発生する可能性のあるトラブルの未然防止が可能です。
特に、大規模な工事や複雑なプロジェクトでは、工事請負契約書が非常に重要な役割を果たします。
工事請負契約書の電子化とは
工事請負契約書の電子化とは、紙ベースの契約書からデジタル形式への変更を意味します。
電子化により、迅速かつ効率的な契約手続きが可能となり、次のようなメリットが得られます。
- 契約手続きの効率化:インターネットを活用して契約の確認や署名が迅速に行える
- コスト削減:物理的な書類の管理が不要になり、保存や検索が容易になる
- データの安全な保管:データを安全に保管でき、容易にアクセスできる
- 環境への配慮:紙の使用量を減らし、環境保護に寄与する
工事請負契約書の電子化に関する法的根拠
工事請負契約書の電子化は、法的根拠によって安心して進められます。ここでは、電子化に関する法制度の変革について解説します。
建設業法第19条の改正
建設業法第19条は、工事請負契約書に関する基本的なルールを定めています。
2001年4月の改正は、情報技術の進展と業務効率化を目指した内容で、契約書を紙に印刷して署名する必要がなくなり、電子的な方法で契約を締結できるようになりました。
- 工事請負契約書の書面化義務が撤廃
- オンラインプラットフォームを利用した電子契約が可能
- 電子印鑑などを利用した契約が法的に有効と認められる
【参考】建設業法|e-Gov法令検索
グレーゾーン解消制度の導入
グレーゾーン解消制度は、2018年に電子契約の普及を促進するために導入されました。
この制度は、新しい電子化技術が法的に適合しているかどうかを確認できる仕組みです。
グレーゾーン解消制度の利用によって、建設業界でも電子契約を安心して導入できるようになりました。
- グレーゾーン解消制度は、新しい技術が法律に適合しているかを確認する仕組み
- 建設業法の複雑な解釈による不確実性を解消
- 企業は電子契約システムの適法性を省庁に照会可能
【参考】電子契約サービスに係る建設業法の取扱いが明確になりました|経済産業省
デジタル改革関連法の影響
2021年5月に成立したデジタル改革関連法の影響の一環として、建設業法第20条も改正されました。
この改正によって工事請負契約書だけでなく、契約締結前の見積書も電子化できるようになりました。
デジタル改革関連法は、業務の効率化や環境への配慮を促進するための重要なステップとされています。
- デジタル改革関連法により、契約締結前の見積書も電子化が可能に
- 電子契約の普及が促進され、業務効率の向上と環境保護が期待される
【参考】建設業法|e-Gov法令検索
工事請負契約書の電子化導入ステップ
工事請負契約書を電子化するためには、いくつかのステップを踏む必要があります。
ここでは、電子契約サービスの登録から電子署名の取得まで、具体的な手順を詳しく解説します。
まず初めに行うべきは、電子契約サービスの登録です。
サービスを選ぶ際には、セキュリティ対策や使いやすさ、サポート体制などを確認しましょう。
登録はオンラインで簡単に行えますが、企業情報や担当者の連絡先などを正確に入力する必要があります。
サービスに登録した後は、実際に電子契約書を作成します。
契約書は通常、PDF形式で作成され、ワードやエクセルで作成した契約書をPDFに変換し、電子契約サービスにアップロードします。
アップロードする際には、契約内容が明確に記載されているかの確認が大切です。
また、改ざん防止のために電子署名やタイムスタンプを付与する機能を利用しましょう。
契約書の作成とアップロードが完了したら、次は施主への通知です。
電子メールを通じて契約書を送信し、確認を依頼します。
例えば「契約書が準備できました。ご確認ください。」といった内容のメールを送ります。
電子契約サービスには、メールの開封確認機能もあるため、相手がメールを開封したかどうかの確認が可能です。
施主が契約書を受け取った後、契約内容を確認します。この段階では、契約書の内容に対して施主の同意が必要です。
電子契約サービスのプラットフォーム上で、施主が契約書を詳細に確認し、同意のボタンをクリックして合意が成立します。
施主側が疑問や不明点を持った場合は、速やかに対応して納得してもらうようにしましょう。
最後に、契約書に電子署名を付与します。
電子署名は、契約当事者間の契約内容への同意を証明するためのデジタル署名です。
電子署名によって、双方による契約内容への同意が明確になり、法的に有効な契約が成立します。
工事請負契約書の電子化の注意点
工事請負契約書を電子化する際には、いくつかの注意点を押さえておく必要があります。
以下に、電子化に関する具体的な注意点を解説します。
相手方の事前承諾
電子契約を行うには、建設業法第19条第3項に基づき、契約の相手方が電子契約に同意する必要があります。
この同意は、書面または電子的な方法で取得しなければなりません。
具体的には、電子メールや電子署名を利用して承諾を得る方法が一般的です。
また、承諾を得た証拠として、メールの記録や電子署名のログを保存しておきます。
技術基準を満たす
電子契約を行う際には、法的に求められる技術基準を満たす必要があります。
建設業法施行規則第13条の4第2項では、電子契約に求められる3つの技術基準が定められています。
見読性
電子契約書の見読性を確保するためには、契約書が容易に読み取れる形式での作成が必要です。
【例】工事請負契約書をPDF形式で作成し、フォントサイズやレイアウトを整えて、ディスプレイ上でも紙面でも容易に読み取れるようにする
原本性
契約書の原本性を確保するためには、契約書が改ざんされていない証明が必要です。
【例】工事請負契約書に電子署名を付与し、契約書が改ざんされていないものをタイムスタンプで証明する
本人性
契約の相手方が正当な権限を持つ本人性を確認するためには、電子署名や二要素認証などの技術を利用します。
【例】工事請負契約の署名時に、契約者にSMS認証コードを送信し、契約者がそのコードを入力して本人性を確認する
社内ルールの策定
電子契約を導入する際には、社内でのルール策定が重要です。具体的には、以下のようなルールが挙げられます。
- どの種類の契約書を電子化するのかを明確にする
- どの電子契約サービスを利用するかを決定する
- 誰が契約書を作成し、誰が最終的に承認するかを明確にする
- 電子契約書の作成から署名までの具体的な手順を策定する
- 社員がスムーズに電子契約を利用できるようにトレーニングを実施する
- 電子契約書の保存や管理に関するセキュリティ対策を講じる
- 情報漏えいや改ざんを防ぐための具体的な対策を実施する
- 全社員に対して運用ルールを周知徹底する
- ルールを定期的に見直し、必要に応じて更新する
これらの項目をしっかりと策定し、社内でのルールとして徹底できれば、電子契約の導入をスムーズに進め、トラブルを防止できるでしょう。
工事請負契約書の電子化の展望
今後、電子契約の導入がさらに広がり、建設業界全体のDX化の加速が期待されています。
企業によっては、工事請負契約書の電子化により年間で数百万円から数千万円のコスト削減が実現できます。
このような成功事例によって、他の企業も電子化への移行を積極的に検討するようになるでしょう。
また、電子契約の導入によって紙の量を大幅に削減でき、環境負荷の軽減にもつながります。
そのため、企業の社会的責任(CSR)の観点からもプラスの効果が期待できます。
まとめ
これからの建設業界において、工事請負契約書の電子化は避けて通れない重要なテーマとなります。
法的根拠が整備され、技術の進展により電子契約は安全かつ効率的に進められるようになっています。
自社の契約書の電子化を促進して、業務効率の向上を実現し、建設業界で競争力を高めていってください。
具体的なステップを踏みながら、今後の展望を見据えて電子化を進めていきましょう。
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