建設業界は、慢性的な人手不足に直面しており、特に求人倍率の高さが大きな課題となっています。
厚生労働省の調査によると、建設業の有効求人倍率は他の業種と比べても非常に高く、業界全体で人材確保が難しい状況です。
本記事では、建設業の求人倍率の現状と原因を詳しく分析し、人材確保のための具体的な対策について解説していきます。
目次
建設業の求人倍率の現状
はじめに、建設業の求人倍率の推移や全産業との比較、さらには職種別の求人倍率を詳しく見ていきましょう。
建設業の求人倍率の推移と全産業との比較
建設業の求人倍率は、過去数年にわたり高い水準で推移してきました。
例えば、厚生労働省のデータ「一般職業紹介状況(令和6年7月分)」によれば、建設業の有効求人倍率は5.65倍です。
これは全産業平均の1.19倍を大きく上回っており、建設業界がいかに人手不足に悩んでいるかを示しています。
この差は、特に復興工事や大規模な公共事業が増えるたびに表れ、求人が急増する一方で、それに見合う労働力を確保できない状況が続いています。
建設業の職種別求人倍率
建設業の中でも、職種によって求人倍率には大きな差があります。
厚生労働省のデータによれば、最も求人倍率が高い職種は「建設躯体工事従事者」で、倍率は9.08倍です。
この職種は、建物の基礎部分を作る重要な役割を担っており、技術的な専門性が求められるため、即戦力となる人材の確保が難しいです。
また「土木作業従事者」の求人倍率も6.66倍と非常に高くなっています。
土木作業は、特に地方においてインフラ整備が急務であるため求人が多く出されていますが、労働力が不足しています。
この職種も専門的な技術や経験が必要であるため、求職者が集まりにくい傾向です。
建設業の求人倍率が高い理由
建設業の求人倍率が他の業界に比べて高い傾向にある背景には、複数の要因が関与しています。
ここでは、建設業の求人倍率が高止まりしている理由について、具体的な原因を掘り下げていきます。
若年層の離職
少子高齢化の影響で若者の人口自体が減っている中、建設業界は特に若者の離職が目立っています。
若年層が建設業を離れる理由は、主に労働環境の厳しさや業界に対するイメージです。
「3K(きつい、汚い、危険)」という言葉が象徴するように、建設業は現場作業が多く身体的な負担が大きいため、若い世代にとって魅力的な職場とはなかなか見られません。
さらに、他業種に比べて労働時間が長く、休日も少ないといった働き方が敬遠され、若者が他の業界に流れてしまう傾向が続いています。
高齢化が進む業界
建設業に就業する若者が減少しているため、結果としてベテラン勢が長く働き続ける必要に迫られますが、それも限界があります。
技能を持つ職人が定年退職した後、代わりに技術を持つ若い労働者が不足するため、企業は求人を出しても人材が集まりにくい状況です。
さらに、今後10年で多くの高齢労働者が退職すると見込まれており、業界全体の生産力が低下するリスクも指摘されています。
特に、専門的な技能を持つ人材の減少によって、建設プロジェクトの進行や品質に影響を及ぼす可能性が高いと考えられています。
賃金と労働条件のミスマッチ
建設業界では、他の業種と比べて賃金が低いと感じられる場合や、長時間労働や休日の少なさが問題視されています。
例えば、週休2日制が導入されていない企業も多く、特に現場作業では工期の都合で長時間労働が常態化しているケースが見られます。
また、賃金に関しても、初期段階では他業種に比べて低めに設定されるケースが多く、労働量と報酬が見合わないと感じる若者が多いのが現状です。
このような賃金と労働条件のミスマッチが解消されない限り、求人に対する応募が少なく、求人倍率が高止まりする状況が続くと考えられます。
他業種との競争
IT業界やサービス業など、成長が著しい分野では、若年層を中心に多くの人材を惹きつけています。
IT業界では、リモートワークやフレキシブルな働き方が一般的になり、建設業の「現場仕事」という固定的なイメージとは対照的です。
さらに、サービス業や飲食業では、比較的未経験でも採用されやすく、スキルを身に付けながら働けるため、応募が集中する傾向も見られます。
福利厚生や労働環境も他業界が充実しているように感じられ、建設業は若年層や経験者を惹きつける力が弱まっています。
景気変動と需要のギャップ
建設業界は経済状況や政策に強く依存する業界で、景気の良し悪しによって需要が大きく変動します。
経済が好調な時期には、民間企業のビル建設や商業施設の増設が増加し、建設需要が高まります。
しかし、景気が低迷すると新規のプロジェクトが凍結されたり、予算が縮小されたりして、需要が急減するケースも珍しくありません。
こうした景気変動や政策による波が大きく影響するため、建設業界は労働力の安定供給が難しい業界といえます。
建設業の採用を増やすための対策
求人倍率の高さを解消し、安定した人材確保を実現するためには、多面的なアプローチが求められます。
ここでは、建設業で採用を増やすための具体的な対策と、効果的な方法について紹介します。
労働環境の改善
建設業界では、過酷な労働環境が離職の大きな要因となっており、労働環境の改善は業界全体の課題です。
長時間労働や休日出勤、現場での身体的負担を減らすために、適切な労働時間の管理と休暇取得の促進、安全対策の強化が求められています。
また、国土交通省が進める「建設業働き方改革加速化プログラム」のように、働き方改革を支援する制度の活用も不可欠です。
従業員が無理なく働ける環境の整備によって、定着率を高め、求人倍率の低下に寄与できます。
- 週休2日制の導入と徹底
- 適切な工期設定による長時間労働の削減
- 現場作業員向けの安全衛生教育の実施
- 適切な労働時間管理システムの導入
- 休憩時間を十分に確保するための休憩室の設置
福利厚生の充実
福利厚生の充実は、従業員が安心して長期間働ける環境を提供するために不可欠です。
特に、住宅補助や健康支援、スキルアップのための研修費用補助などを充実させて、従業員の定着率を高められます。
多様なライフスタイルに対応した福利厚生の提供によって、従業員の満足度が向上し、企業の魅力も高まります。
- 住宅手当や家賃補助制度の導入
- 定期的な健康診断やストレスチェックの実施
- 資格取得のための費用補助や研修制度の提供
- 社員食堂やリフレッシュルームの整備
- 家族向けのイベントやレクリエーションの実施
女性や若年層を引き込む取り組み
建設業界は男性が多く、若年層や女性の参入が少ない現状があります。
女性専用の設備や、若年層が興味を持つ職場環境の整備が重要です。
特に、インターンシップや現場体験プログラムを通じて、業界の魅力を伝える取り組みが有効です。
また、柔軟な働き方やキャリア形成の支援によって、これまで敬遠されがちだった層にも働きやすい環境を提供できます。
- 女性専用の更衣室やトイレの整備
- 若年層向けのインターンシップや職場見学の実施
- 柔軟な勤務体制やリモートワークの導入
- キャリアパスや昇進の透明性を確保
- 女性のキャリア形成を支援する研修プログラムの導入
採用戦略の見直し
採用活動では、幅広い層に対応した柔軟な戦略が求められています。
従来の採用戦略では、経験者や資格保持者に依存していたため、幅広い人材を採用するのが難しい状況です。
これを改善するためには、無資格者や未経験者にもチャンスを広げる採用戦略を導入する必要があります。
また、SNSを活用した採用広報や、オンライン面接などの導入で応募しやすさの向上も効果的です。
- 未経験者向けの採用枠拡大と育成プログラムの導入
- オンライン面接や採用イベントの実施
- SNSを活用したターゲット層向けの採用キャンペーン
- インターンシップ制度を通じた採用活動
- 若年層向けのキャリア相談会や就職フェアの開催
IT化と業務効率化の推進
IT化は、業務効率化を進めるために欠かせない取り組みです。
建設業界では、ドローンや自動化技術、クラウドシステムを活用して現場の効率を向上させ、労働者の負担を軽減できます。
また、BIMやCIMの導入によって、設計や施工管理がデジタル化され、プロジェクト全体の管理がスムーズとなります。
IT技術の推進は、業務の迅速化だけでなく、従業員がより快適に働ける環境の整備が可能です。
- ドローンを使った現場監視や測量の効率化
- 自動化された建設機械の導入で作業の負担軽減
- BIM/CIMシステムによるプロジェクト管理のデジタル化
- クラウドベースの管理システムによる情報共有の円滑化
- 現場作業員向けのタブレットやスマートデバイスの活用
まとめ
建設業界が抱える求人倍率の問題は、労働環境や賃金のミスマッチ、若年層の離職、高齢化など、多岐にわたる要因が絡み合っています。
しかし、労働環境の改善や福利厚生の充実、IT化による業務効率化などの適切な対策により、こうした課題に対応し、求人倍率の改善が期待できます。
今後、業界がこれらの課題にどのように向き合い、持続的な成長を遂げるかが大きなカギとなるでしょう。
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