日本の建設業界は、少子高齢化や若年層の減少、厳しい労働環境など、さまざまな要因から深刻な人手不足に直面しているのが現状です。
こうした状況に対処するため、建設業界全体でどのような対策を講じるべきかが問われています。
本記事では、建設業の人手不足の背景を探りつつ、効果的な対策について具体的に解説します。
なぜ建設業の人手不足は当たり前といわれるのか？
少子高齢化が進む日本において、特に建設業界は若年層の労働者が減少し、ベテラン世代が引退していく中でその影響を強く受けています。
ここでは、なぜ建設業の人手不足は当たり前といわれるのか、その主な原因を探ります。
高齢化と若年層の不足
国土交通省のデータ「建設業を巡る現状と課題」によると、建設業に従事している労働者のうち、55歳以上の割合が年々増加しており、2022年時点で35.9％に達しています。
特に、60歳以上の労働者が全体の25.7％を占めている現状は、今後の労働力不足を一層深刻化させる可能性が高いといえるでしょう。
さらに、若年層の就業者が極端に少ないことも問題です。
同じく国土交通省のデータでは、建設業に従事する29歳以下の若年層は全体のわずか12％しかおらず、これは他の産業と比較しても特に低い数字です。
若者が建設業界に参入しにくい背景には、建設業に対するネガティブなイメージや、他の職業に比べて魅力的な就職先とは思われていない点が挙げられます。
加えて、インターネットの普及やIT業界の台頭により、若者にとって魅力的な職業選択肢が増えている点も、建設業界への就業者減少の一因となっています。
このように、建設業界は高齢化と若年層の不足という二重の課題に直面しており、今後の業界の持続的な成長には、これらの問題への対策が不可欠です。
長時間労働と低賃金が若者に与える影響
建設業界におけるもう一つの大きな問題は、長時間労働と低賃金が若者に与えるネガティブな影響です。
実際に国土交通省のデータ「建設業を巡る現状と課題」では、建設業の年間実労働時間は他の業界と比較して90時間以上も長く示されています。
このような長時間労働の常態化が若者にとって大きな負担となり、建設業への就業を敬遠する理由の一つになっています。
また、建設業界の賃金水準が他の業界に比べて低い点も、若者が建設業を選ばない理由の一つです。
国土交通省のデータ「建設業を取り巻く現状と課題」によれば、建設業の賃金のピークは45歳から49歳で、他の製造業と比較するとピークが早く訪れる傾向があります。
さらに、多くの建設現場では日給制が採用されており、悪天候などで作業が中止になると収入が不安定になるリスクも伴います。
安定した収入を求める若者にとって、これらの要因は建設業界を選ばない大きな理由となっているでしょう。
建設業界のイメージと実際のギャップ
建設業界は、長年にわたり「きつい」「汚い」「危険」といったいわゆる「3K」のイメージが定着している業界です。
このネガティブなイメージは、特に若者にとって建設業界を敬遠する大きな要因となっています。
しかし、実際の建設業界は、近年の技術革新や働き方改革の影響で大きく変わりつつあります。
例えば、国土交通省が推進している「i-Construction」は、ICT技術を導入して建設現場の生産性を向上させる取り組みです。
また、福利厚生の充実や、週休2日制の導入など、働きやすい環境を整える取り組みも増えてきています。
このように、建設業界にはイメージと実際のギャップが存在しています。
しかしながら、依然として古いイメージが先行しているため、業界全体としてこのギャップを埋めるための広報活動が必要でしょう。
建設業の人手不足対策とは？人手確保の方法に対する具体的な対策
建設業界が抱える人手不足問題を解消するためには、効果的な対策の実施が不可欠です。
ここでは、具体的にどのような方法が有効なのか、さまざまなアプローチを紹介します。
労働環境の改善
建設業界における人手不足を解消するためには、労働環境の改善が欠かせません。
現場で働く人々の健康と安全を守り、安心して働ける環境の整備が、人材の定着や新規採用を促進する上で非常に重要です。
以下は、労働環境改善の具体的な取り組み例です。
長時間労働の是正
長時間労働を是正するためには、労働時間の短縮や適切な休暇の確保が重要です。
- 月間労働時間の制限を導入し、法定労働時間を超えた残業を抑制する
- 週休2日制の導入を推進し、働く人々が定期的に休息できる環境を整える
- ノー残業デーを設け、定期的に定時退社を促進する取り組みを行う
- 工事ごとの適切な工期設定を行い、無理なスケジュールでの作業を避ける
安全性向上のための取り組み
建設現場において事故や怪我を防ぐためには、労働者が安全に作業できる環境を整え、適切な教育や訓練の提供が必要です。
- 定期的な安全教育や訓練の実施で、労働者の安全意識を高める
- 現場監視カメラの導入により、作業の安全性をリアルタイムで確認できる仕組みを整える
- 危険な作業を自動化するために、ロボットやAI技術を導入する
- 建設現場での安全パトロールを強化し、危険箇所の早期発見と改善を図る
働きやすい職場環境の整備
働きやすい職場環境の整備は、労働者の満足度を高め、人材の定着や生産性向上に直結します。
- 休憩所や仮設トイレの衛生環境を改善し、労働者が快適に過ごせる環境を提供する
- フレックスタイム制や時短勤務制度を導入し、働き方の柔軟性を確保する
- メンタルヘルスケアのためのカウンセリングサービスを導入し、従業員の心の健康をサポートする
- 職場でのハラスメント防止対策を徹底し、全員が尊重される職場文化を築く
給与体系と待遇の見直し
建設業界において人手不足を解消するためには、労働環境の改善だけでなく、給与体系と待遇の見直しが欠かせません。
労働者にとって魅力的な職場にするためには、適正な賃金と福利厚生の整備が求められます。
以下は、給与体系と待遇見直しの具体的な取り組み例です。
給与水準の引き上げ
給与水準の引き上げによって、労働者のモチベーションを向上させ、業界全体の魅力を高められます。
- 基本給の定期的な見直しと引き上げを実施する
- 昇給制度を明確にし、経験やスキルに応じた適切な昇給を行う
- 建設キャリアアップシステム（CCUS）を活用し、スキルや経験に基づいた給与体系を導入する
- プロジェクトごとの特別ボーナスやインセンティブを設け、成果に応じた報酬を提供する
福利厚生の充実
福利厚生の充実は、労働者の生活の安定をサポートし、企業への信頼感を高めます。
- 健康保険や厚生年金への加入を徹底し、社会保険のカバーを充実させる
- 住宅手当や通勤手当など、生活支援を目的とした手当を提供する
- 福利厚生施設の利用や、リフレッシュ休暇制度の導入を進める
- 社員の家族向けの福利厚生プログラムを拡充し、家庭の安定をサポートする
多様な人材の採用と育成
建設業界の人手不足を解消するためには、多様な人材を積極的に採用し、適切な育成が必要です。
労働力の多様化は、業界全体の活性化や労働力の安定確保に繋がります。
以下は、多様な人材採用と育成の具体的な取り組み例です。
外国人労働者の採用
外国人労働者の採用は、人手不足解消の大きな手段となっています。
- 特定技能制度を活用し、即戦力となる外国人労働者を採用する
- 技能実習制度を通じて外国人労働者を育成し、技能実習修了者を再雇用する
- 多言語対応の研修プログラムを導入し、外国人労働者が日本の労働環境に迅速に適応できるよう支援する
- 文化や習慣の違いを考慮し、職場でのコミュニケーションを円滑にするためのセミナーを開催する
女性の積極採用
女性が働きやすい環境を整備して、積極採用を図ります。
- 女性専用の設備や休憩スペースを設置し、安心して働ける環境を整える
- 出産・育児休暇制度を充実させ、育児と仕事の両立を支援する
- 女性向けの建設技術研修プログラムを導入し、専門スキルの習得を促進する
- 現場監督や管理職に女性を積極的に登用し、リーダーシップの機会を提供する
資格取得の支援
資格取得の支援は、従業員のスキルアップを促進し、より高い技術力を持つ人材の確保ができます。
- 資格取得にかかる費用を会社が全額または一部負担する制度を導入する
- 資格取得に向けた社内研修や勉強会を定期的に開催する
- 資格取得者に対して特別手当を支給し、モチベーションを向上させる
- 社員が試験勉強に集中できるよう、試験前に特別休暇を付与する
DXの推進
デジタルトランスフォーメーション（DX）は、建設業界においても避けては通れない課題となっています。
ICT（情報通信技術）を活用したデジタル化によって、労働力不足や業務の効率化に対応できます。
以下は、DX推進の具体的な取り組み例です。
ICT技術の導入
ICT技術の導入は、建設業界において作業の効率化や精度向上を実現するための重要な手段です。
- ドローンを用いた測量や進捗確認により、現場作業の効率化を図る
- クラウドベースの施工管理システムを導入し、リアルタイムでデータを共有する
- 自動化された建設機械やロボットを導入し、危険な作業を安全に実行する
- デジタル図面や3Dモデルを活用し、設計から施工までの一貫した情報管理を行う
デジタル技術導入のための人材育成
デジタル技術の導入を効果的に行うためには、従業員が新しい技術に対応できるよう、人材の育成が不可欠です。
- ICT技術に関する社内研修を定期的に実施し、従業員の技術理解を深める
- 社外の専門機関と提携して、最新のデジタル技術に関する講座を提供する
- 若手社員向けにデジタルスキルを習得するためのプログラムを導入する
- 新技術を取り入れたプロジェクトを積極的に実施し、実践的な学習機会を提供する
まとめ
建設業界が直面する人手不足問題は、少子高齢化や若年層の減少、厳しい労働環境など、複数の要因が重なっています。
業界全体での変革が、建設業の未来を支える鍵となります。
ICT技術の導入や業務効率化のシステムを積極的に導入すれば、生産性を高め、持続可能な企業経営が可能となるでしょう。
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