2023年の税制改正によって、2024年1月1日から電子帳簿保存法の内容も改正されるようになりました。
デジタル化が進む現代では、各業界で電子取引による電子データの保存が進んでいます。
建築業でも電子データの保存が進んでいるため、正しい取り扱いを理解しておかなくてはいけません。
しかし、建築事業者の方は「どのように書類を電子保存すればいいのかわからない」という悩みもあるはずです。
当記事では、建築業における電子帳簿保存法の扱いや見積書の保存期間・保存方法について詳しく解説します。
見積書を電子保存するときの注意点についても説明するため、ぜひ最後までご覧ください。
目次
建築業の見積書は電子帳簿保存法の保存対象
電子帳簿保存法とは、電子データによる帳簿を保存することを義務化した法律です。
紙媒体の帳簿も電子データとして保存することが義務付けられており、各業界で対応が必要となっています。
建築業も同様に見積書は電子帳簿保存法の保存対象となっているため、法律によって定められた保存方法に基づいて管理しなければなりません。
発行・受領した見積書を電子データとして保存するためには、、電子帳簿保存法の要件を満たす必要もあります。
電子帳簿保存法に違反すると罰則のリスクがあるため、十分注意しながら保存するようにしておきましょう。
改正された電子帳簿保存法の変更点については、下記をご覧ください。
電子帳簿保存法の概要や罰則については、以下の記事で詳しく紹介しています。
電子帳簿保存法改正により建築事業者が得られるメリット
電子帳簿保存法改正により建築事業者が得られるメリットとして、以下のような点が挙げられます。
コスト削減
建築業では契約書や注文請書を発行する場合、契約金額に応じて印紙税が必要となります。
書類が増えるほど多くの印紙税がかかるため、経営者にとっては経費が増える原因になるでしょう。
電子取引には印紙税がかからないため、大幅なコスト削減へとつながります。
株式会社竹中工務店のデータによると、電子取引によって削減できた印紙代は年間約4億円にもなると紹介されています。
印紙代をはじめ印刷にかかるコスト、請求書の郵送費用もかからなくなるなど経費削減につながります。
働き方改革の推進
建築業では2024年4月から時間外労働の上限規制が適用され、労働者の残業時間を削減する取り組みが始まりました。
従業員の負担を軽減できる点はメリットですが、生産性が低下する点については課題となっています。
そこで電子取引を導入することで、図面や作業工程をデジタル化して全体的な生産性を向上可能です。
現場でも書類の作成ができるようになるため、事務所への移動時間を削減して効率的に作業を進められます。
電子取引を導入するためには社内や取引先との準備が必要となりますが、働き方改革に対応できる点はメリットの1つといえるでしょう。
情報管理
電子取引によって書類をデータ化すれば、スマートフォンやタブレットなどのデバイスから情報管理できるようとなります。
時間や場所を問わずアクセスできるため、好きなタイミングで書類の閲覧・書き込みが可能です。
例えば、工程管理表を作業メンバーに送るときは、モバイルデバイスで情報を簡単に共有できます。
社内に書類スペースを確保したり、印刷した工程表を作業員に直接渡す手間もなくなります。
見積書の保存期間
見積書の保存期間について、法人は7年、個人は5年の保存が義務付けられています。(【参考】No.5930 帳簿書類等の保存期間|国税庁)
こちらは確定申告書提出期限の翌日からの保存期間となっており、必ず遵守しなければなりません。
例えば確定申告の提出期限が2024年3月末なら、2031年4月末まで見積書の保存が必要となります。
見積書が電子データかどうかにかかわらず、どのような媒体でも一定期間の保存が必要であることを理解しておきましょう。
見積書の保存方法
見積書の保存方法には、以下の3つがあります。
保存方法によって取り扱い方が異なるため、それぞれの媒体に合わせて適切な管理を行うようにしましょう。
電子取引による見積書の保存
電子取引によって作成した見積書は、そのまま電子データとして保存が必要です。
電子帳簿保存法が改正されたことで、電子データの取引情報は電子データ保存が義務化されました。
電子メールやクラウドサービス、EDIシステム、FAXなどのやり取りは、全て電子取引の対象となります。
電子データを保存する場合、要件として「真実性の要件」と「可視性の要件」の2つを満たさなければなりません。
保存要件 | 内容 |
---|---|
真実性の要件 | ・タイムスタンプが付与された取引情報の受領 ・記録の訂正、削除の履歴が残るシステムの利用など、不正な改ざんを防止するシステムによって取引情報の受領および保存 ・正当な理由がない訂正・削除を防止する事務処理規程を定め、それに従った運用の実施 |
可視性の要件 | ・パソコンやプリンター、システムの概要書・操作説明書を備え付ける ・「取引日」、「金額」、「取引先」で検索できる条件でデータを保存 |
「可視性の要件」について、ほかの検索要件も定められていますが、売上5,000万円以下の事業者がダウンロードの求めに応じられるようにしているなら、検索要件は必要ありません。
また、電子データ保存義務化の猶予措置も改正されています。
下記要件を満たす場合は、先ほど紹介した保存要件を満たしていない場合でも、電子データを単に保管することが認められています。
紙取引による見積書の保管
紙取引によって作成した見積書は、電子データの保存もしくは紙面の保管を事業者が選択できます。
見積書を紙面で保管する場合、事業年度もしくは取引先ごとに分類することをおすすめします。
事業年度・取引先によって分類しておけば、廃棄や検索がしやすいためです。
しかし、電子取引と紙取引によって保存方法を変えると、管理が複雑化してしまいます。
紙面の保管はコストや保管スペースが必要になるため、タイミングを見て電子取引に変更すると良いでしょう。
電子取引・紙取引の両方を電子保存
電子取引と紙取引の両方を電子保存する方法もあります。
媒体にかかわらず、電子保存に統一しておけばコスト削減や業務効率化につながります。
電子取引の電子保存は、前述でご紹介した「電子取引による見積書の保存」と同じ流れです。
紙取引の見積書を電子保存する場合、電子帳簿保存法にある「スキャナ保存制度」の利用がおすすめです。
スキャナ保存制度を利用するためには、電子取引と同じく「真実性の確保」と「可視性の確保」の両方を満たす必要があります。
- 真実性の確保:データの改ざん・削除を防止
- 可視性の確保:データ確認のための装置を備え付ける
スキャナ保存要件は、書類が「重要書類」、「一般書類」のどちらに分類されるのかによって異なります。
取り扱う見積書の種類を整理したうえで、それぞれの要件を満たして保存しておきましょう。
見積書を電子保存するときの注意点
見積書を電子保存するときは、以下のような点に注意してください。
設定すべき検索要件のチェック
見積書は税務署から帳簿の確認がおこなわれることもあるため、開示ができるように検索要件を満たしておく必要があります。
検索機能は、スキャナ保存・電子取引ともに下記の要件を満たさなければなりません。
- 「日付・金額」について範囲指定して検索できる
- 「日付・金額・取引先」を組み合わせて検索できる
- 取引等の「日付・金額・取引先」で検索ができる
質問検査権に基づいて、税務職員がダウンロードを求めたデータ全てについて応じることができるなら、1番目と2番目の要件は不要となります。
帳簿の関連書類・取引情報の開示が必要になることもあるため、検索要件を満たせるように設定しておきましょう。
タイムスタンプの付与
タイムスタンプは、電子データの内容が変更されていないことを証明するものです。
不正な変更がされていないことを証明し、正しく取引が成立した書類に付与できます。
スキャナ保存・電子取引ともに、タイムスタンプは7営業日以内に付与が必要です。
スキャナ保存の場合、入力期間内にスキャナ保存したことを確認できるなら、タイムスタンプとして代替できます。
電子取引は、訂正削除履歴が管理できるシステムで保存していれば、タイムスタンプの代替に認められます。
受領⽅法によっては対応方法に制限があるため、十分注意しておきましょう。
有効期限の明記
見積書を発行する場合、有効期限を明記しておく必要があります。
見積書に有効期限が明記されていなければ、クライアントから安価な価格で請求を迫られることもります。
特に建築業では資材の高騰によって請求額が変動しているため、古い請求書のままにしていると損を行う可能性も高いです。
見積書に有効期限を明記してことで、商談を進めやすくなりクライアントにもいつまで有効なのか共有できるようとなります。
経営者がリスクを負わないようにするためにも、見積書には有効期限を明記しておきましょう。
見積書と請求書を同一の場所へ保管
電子データとして見積書と請求を保管するなら、同じ場所で管理することが大切です。
データの保管場所を分けていると、必要なタイミングで見つからずトラブルが発生する原因となります。
例えば見積書と請求書をまとめる大フォルダを作成し、そこに中フォルダとしてそれぞれの書類データを保管しておけば管理がしやすくなります。
タイムスタンプが付与されていないデータがあるときは「完了」、「未完了」で整理する方法がおすすめです。
管理方法は企業によって異なりますが、すぐに電子データを見つけられるようにするためにも見積書と請求書は同一の場所へ保管しておきましょう。
見積書の電子帳簿保存法に関するQ&A
建築業で見積書を取り扱う方は、いくつかの疑問を抱えているのではないでしょうか。
こちらでは、見積書の電子帳簿保存法に関するよくある質問をいくつか回答します。
疑問を解消するためにも、ぜひチェックしてください。
Q.1:法人と個人事業主は保存期間に違いはありますか?
見積書の保存期間は、法人7年、個人5年の保存が義務付けられています。
青色申告書を提出した事業年度で欠損が生じた場合、見積書は10年間保存が必要です。
確定申告書提出期限の翌日からの保存期間となっているため、間違えないよう注意しなければなりません。
特に個人事業主は法人に比べて保存期間が短いため、有効な期間を設定しておくようにしましょう。
Q.2:タイムスタンプに付与期限はありますか?
見積書を電子データとして保存する場合、タイムスタンプの付与期限は最長2ヵ月とおおむね7営業日以内となっています。
法改正前は最短3営業日以内となっていましたが、法改正後は期間が長く設定されるようになりました。
Q.3:PDFの見積書はどのように保存すべきですか?
PDFの見積書は電子取引に含まれるため、電子取引による見積書の保存要件を満たす必要があります。
紙媒体で請求書が送られてきた場合、紙のままの保存とスキャナによる電子データ保存のどちらでも認められています。
電子データで受領した見積書は、プリントアウトして保存できないため注意しておきましょう。
Q.4:契約に至らなかった見積書における対応方法はどうすれば良いですか?
契約に至らなかった見積書は、保存が義務付けられていないため任意の管理となります。
実際に電子帳簿保存法では契約に至らなかった見積書の保存について明文化されておらず、担当者に管理方法を任せる流れとなっています。
まとめ
今回は、建築業における電子帳簿保存法の扱いや見積書の保存期間・保存方法、見積書を電子保存するときの注意点まで詳しく解説しました。
2024年1月1日から電子帳簿保存法の改正によって、電子データによる帳簿の保存が義務付けられています。
建築業も見積書は電子帳簿保存法の保存対象となっているため、定められた保存方法に基づいて管理が必要です。
建設業に電子取引を取れることで、コスト削減や働き方改革の推進、情報管理といったメリットがあります。
ぜひ当記事でご紹介した請求書の保存方法をもとに、ただしい管理を行うようにしておきましょう。
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【参考】電子帳簿保存法の内容が改正されました