工事請負契約書は、工事規模の大小にかかわらず、必ず発行しなければならないことはご存知でしょうか。
建設業者の中には「建設業許可を取ってなければ、契約書の発行は必要ない」と誤った認識をされている方もいます。
工事請負契約書を発行せずに工事を行っていると、行政処分の対象になる可能性があります。
最悪のケースでは、建設業許可が取り消されることも考えられるため注意が必要です
本記事では、工事請負契約書の必要性や記載内容注意点について解説します。
目次
工事請負契約書とは?
工事請負契約書とは、注文者が元請業者に建築物の新築・増築・改築・改修を発注し、元請業者が受注する内容の契約書です。
主に「施主と工務店」「施主とリフォーム会社」が、契約する際に用いられます。
また工事の規模関係なく、工事請負契約書が発行しなければなりません。
はじめに工事請負契約書について、以下2つの観点から解説します。
工事請負契約書の必要性
工事請負契約書の必要性について説明します。
そもそも民法では、口頭での契約が認められていますが、建設業法では契約書の発行が義務付けられています。
なぜなら契約書の交付で以下3つの効果があるからです。
不平等契約の防止
建設業界では、注文者と元請業者の力関係が対等でないことが多いです。
一般的には注文者の方が力が強く、元請業者の方が力が弱いです。
そのため、事前の取り決めを明文化しておかないと、元請業者は注文者から不利な契約を強要される可能性があります。
- 無理な工期の短縮
- 工事代金の値下げ
- 工事代金の支払い時期変更
上記のような不平等契約を防止するために契約書が必須です。
さらに契約書を作成していると、トラブルが発生した際の解決方法なども明文化できます。
解決方法が明文化されていれば、問題が泥沼化せず円滑に工事を進められます。
認識の違いを防ぐ
契約書を作成していると、注文者と元請け業者の認識の違いを防止できます。
建設業界の案件は、建築工事であれば工期が数ヶ月にわたることは一般的です。
また工事費は数千万以上になるため、少しの認識の違いが大きなトラブルにつながってしまいます。
事前に工事請負契約書に詳細な案件内容を記載していれば、注文者と登記業者の認識の違いをなくし、トラブルの防止が可能です。
紛争リスクを下げる
建設業界の案件は、事前に取り決め仕様通りに工事が進まないことは珍しくありません。
- 材料が高騰して事前に取り決めた金額では赤字になる
- 地中に遺跡があり工事が進められない
- 注文者の要望で追加工事が発生した
解決方法を契約書で定めておかないと、工事代金が支払われない、工期の延長が認められないなどが起き、戦争につながる可能性が高いです。
上記のような事態が発生したケースに備えて、協議方法や解決方法を定める必要があります。
工事請負契約書と注文請書の違い
工事請負契約書と注文請書の違いは、発行者が異なることです。
- 工事請負契約書:注文者と元請業者
- 注文請書:元請業者
工事請負契約書は、記載されている内容に注文者と元請け業者の両者が合意して、はじめて効力を持ちます。
そのため工事請負契約書は、両者に強制力を持たせる書類です。
一方で注文請書は、注文者の注文書に対して元請け業者が「注文書の内容に合意します」との意思表示を示すための書類。
そのため契約を成立させるためには、申し込みに必要な「注文書」と申し込みを承諾する「注文請書」の2つの書類が必要です。
そのため注文請書だけでは、注文者への強制力はありません。
工事請負契約書の記載内容
工事請負契約書に記載すべき項目は、建設業法第19条に記載されています。
契約書に盛り込むべき項目は以下の15個です。
- 工事内容
- 契約金額
- 着工・竣工の時期
- 工事代金の支払い時期・方法
- 工事をおこなわない時期の日にち・時間帯・内容
- 「設計変更」「工事の延期・中止」の申出があったときの「工期変更」「工事金額の変更・損害負担の算出方法」
- 天候などの不可抗力によって、工事がおこなえないときの「工期変更」「損害負担・損害額の算出方法」
- 物価が大幅に変動したときの工期・請負代金の変更方法
- 工事が原因で第三者が損害を受けたときの賠償金の負担割合
- 注文者が資機材を提供するケースの内容の定め
- 検査・引き渡し時期
- 竣工後の工事代金の支払い時期と方法
- 契約不適合時の取り決め
- 各当事者や履行を遅滞したときの利息遅延・違約金・その他損害金
- 紛争の解決方法
工事請負契約書の注意点
工事請負契約書の注意点は、以下の3つです
印紙代
工事請負契約書を発行する際には、契約金額によっては印紙代が掛かります。
契約金額による印紙代は、下記表の通りです。
契約金額 | 本則税率 | 軽減税率 |
---|---|---|
1万円未満のもの | 非課税 | – |
1万円以上 100万円以下のもの | 200円 | – |
100万円を超え 200万円以下のもの | 400円 | 200円 |
200万円を超え 300万円以下のもの | 1,000円 | 500円 |
300万円を超え 500万円以下のもの | 2,000円 | 1千円 |
500万円を超え 1,000万円以下のもの | 1万円 | 5千円 |
1,000万円を超え 5,000万円以下のもの | 2万円 | 1万円 |
5,000万円を超え 1億円以下のもの | 6万円 | 3万円 |
1億円を超え 5億円以下のもの | 10万円 | 6万円 |
5億円を超え 10億円以下のもの | 20万円 | 16万円 |
10億円を超え 50億円以下のもの | 40万円 | 32万円 |
50億円を超えるもの | 60万円 | 48万円 |
契約金額の記載のないもの | 200円 | – |
ただし軽減税率の適用が受けられる契約書は、2014年(平成26年)4月1日から2024年(令和6年)3月31日の期間に作成されるものです。
建設業許可がなくても作成が必要
建設業の許可を持っていない会社であっても、工事請負契約書の作成は必須です
つまり以下の要素に関係なく、工事請負契約書を発行しなければなりません。
- 公共と民間
- 元請業者と下請業者
- 工事規模の大小
建設業者の中には「建設業の許可を受けていなければ、工事請負契約書を発行しなくていい」と誤って認識を持つ方がいます。
どのような工事であっても、工事請負契約書の発行は必須となるため注意しましょう。
経営審査事項の重要書類
工事請負契約書は、経営審査事項の重要書類として確認されます。
工事請負契約書を確認して、以下のことを調査します。
- 本当に工事を請け負っているのか
- 請け負っている工事の規模
そのため公共工事を受注したいと考えている建設会社は、工事請負契約書がないと本当に工事を請け負った証明ができません。
まとめ
本記事では、工事請負契約書の必要性や記載内容注意点について解説しました。
工事請負契約書は、工事を請け負うのであれば以下の要素を問わず、発行が必須です必須です。
- 公共と民間
- 元請業者と下請業者
- 工事規模の大小
建設業法第19条で契約書の発行が義務付けられています。
契約書を発行せずに工事を行うと行政処分の対象になる可能性もあるため、工事ごとに必ず契約書を発行してください。
また公共工事受注予定の会社は、経営審査事項で工事請負契約書を確認される可能性が高いです。
工事の実態を疑われないためにも契約書は発行しておきましょう。