下請業者に工事を依頼する際は、工事下請基本契約書が必須です。
契約書を交わしていないと、請負代金の支払い方法やトラブルの解決方法などでも見る可能性があります。
また契約書に記載する事項は建設業法に定められています。
最低限記載すべき事項を満たしていないと、法律違反になってしまうため注意が必要です。
本記事では、工事下請基本契約の概要、記載すべき事項、必要な印紙代について解説します。
目次
工事下請基本契約とは?
工事下請基本契約とは、注文者が下請業者に工事を依頼する際の約束です。
多くのケースでは注文者の方が下請け業者よりも力が強いです。
そのため何のルールもなければ、注文者を下請け業者に以下のような自分の都合の良いルールを押し付ける可能性があります。
- 不当に安い金額で発注する
- 決まった価格を一方的に下げる
- 不当に短い工期を設定する
下請業者が不利にならないために工事下請基本契約で、さまざまな規制がおこなわれています。
工事下請基本契約書は着工前に締結
工事下請基本契約書は、当然ながら着工前に締結すべきです。
着工前の段階で認識に齟齬があると、下請にとって明らかに不利な内容での施工を押し付ける結果になるかもしれません。
また、下請業者と施工範囲や条件の認識にずれが生じ、着工後にトラブルになれば工期の遅れにもつながります。
工事下請基本契約書の必要性
読書の中には工事下請基本契約書の必要性に疑問を感じている方もいるでしょう。
工事下請基本契約書の必要性を以下2つの観点から説明します。
- 建設業法との関係
- 記載項目
- 契約内容の規則
建設業法との関係
そもそも民法では「口頭」でも契約が成立します。
民法522条
1.契約は、契約の内容を示してその締結を申し入れる意思表示(以下「申込み」という。)に対して相手方が承諾をしたときに成立する。
2.契約の成立には、法令に特別の定めがある場合を除き、書面の作成その他の方式を具備することを要しない。
【引用】民法-e-GOV法令検索
しかし建設業法では「契約書の作成」を義務付けています。
建設業法第19条
建設工事の請負契約の当事者は、前条の趣旨に従つて、契約の締結に際して次に掲げる事項を書面に記載し、署名又は記名押印をして相互に交付しなければならない。
【引用】建設業法-e-GOV法令検索
そのため契約書を交わしていない契約は、建設業法違反です。
国土交通省の建設業法令遵守ガイドライン(第4版)には、「契約は着工前に書面によりおこなうことが必要」と明記されています。
記載項目
工事下請基本契約書に記載すべき項目は、建設業法第19条に明記されています。
1.工事内容
具体的な工事内容を記載します。
具体的に契約書内で記載する方法と、「別紙図面の通り」と契約書に記載する2つの方法があります。
2.請負代金の額
請負代金は以下のように記載します。
請負代金 〇〇円
(うち取引に係る消費税及び地方消費税の額 ××円)
3.工事着手の時期及び工事完成の時期
工事着手の時期及び工事完成の時期は次のように記載します。
工期
着工 令和 年 月 日
完成 令和 年 月 日
4.工事を施工しない日又は時間帯の定めをするときは、その内容
工事をおこなわない日や時間帯は以下のように記載します。
工事をおこなわない日 月 日
工事をおこなわない時間帯 時 分から 時 分
5.請負代金の全部又は一部の前金払又は出来形部分に対する支払の定めを
するときは、その支払の時期及び方法
請負代金の前金払いや出来高払いを行う場合は次のように記載しましょう。
前払金
契約締結後 日以内に
万円部分払い
部分払
◯月 日締切
翌月 日支払
引渡し時
請求後 日以内
6.当事者の一方から設計変更又は工事着手の延期若しくは工事の全部若し
くは一部の中止の申出があった場合における工期の変更、請負代金の額
の変更又は損害の負担及びそれらの額の算定方法に関する定め
下請業者は、注文者の都合により工事がストップし請負代金の支払いが受けられないと、資金繰りに影響が出る可能性が高いです。
そのため、工事の中止や延期が発生したときの措置をあらかじめ定める必要があります。
7.天災その他不可抗力による工期の変更又は損害の負担及びその額の算定
方法に関する定め
一般的に天候などの不可抗力によって、工期変更や損害が発生したときは、下請業者は注文者に責任を負いません。
そのため、下請業者が責任を負わない旨の規定を盛り込みましょう。
8.価格等物価統制令(昭和21年勅令第118号)第2条に規定する価
格等をいう。)の変動若しくは変更に基づく請負代金の額又は工事内容
の変更
予想できない材料の価格変動が起きたときに備えて、請負代金の変更方法について定めておきます。
9.工事の施工により第三者が損害を受けた場合における賠償金の負担に関
する定め
工事により第三者に被害を与えた際の責任は、原則下請け業者にあります。
ただし、注文者の指示により第三者に損害を与えたケースでは、注文者が責任を負わなければなりません。
10.注文者が工事に使用する資材を提供し、又は建設機械その他の機械を貸
与するときは、その内容及び方法に関する定め
資機材の提供がある場合には記載しましょう。
ない場合は記載不要です。
11.注文者が工事の全部又は一部の完成を確認するための検査の時期及び方
法並びに引渡しの時期
請け負った工事完成後の検査時期と引き渡し時期を記載します。
検査時期 工事完成の日から 日以内
引き渡し時期 検査日から ◯日以内
12.工事完成後における請負代金の支払の時期及び方法
工事完成後の請負代金支払いは、以下のように記載します。
例は2回分割を想定しています。
令和 年 月 日 万円
令和 年 月 日 万円
13.工事の目的物が種類又は品質に関して契約の内容に適合しない場合にお
けるその不適合を担保すべき責任又は当該責任の履行に関して講ずべき
保証保険契約の締結その他の措置に関する定めをするときは、その内容
本規定は、契約不適合責任と呼ばれています。
元請け業者と施主様に関係する規定で、下請業者に関係することはほとんどありません。
14.各当事者の履行の遅滞その他債務の不履行の場合における遅延利息、違
約金その他の損害金
決められた日までに工事が完成しないときは、違約金を支払うように定めます。
15.契約に関する紛争の解決方法
紛争が起きたとき、どこの裁判所で裁判をおこなうのかを記載します。
契約内容の規則
契約書を交わしていれば、どのような条件であっても認められるわけではありません。
建設業法では、注文者が下請け業者に不利な契約を結ばせないために以下の規則を定めています。
- 注文者は、工事完了の通知を受けてから20日内に検査をおこなわければならない
(建設業法第24条の4第1項) - 注文者は、検査後に下請業者から要求があれば直ちに引き渡しを受けなければならない
(建設業法第24条の4第2項) - 注文者は、下請業者に不利な取り扱いをしてはならない
(建設業法第24条の5) - 注文者は、下請代金を可能な限り早く支払わなければならない
(建設業法第24条の6第1項・同第2項) - 注文者は、一般金融機関から割引を受けることが困難な手形を交付してはならない
(建設業法第24条の6第3項)
【参考】建設業法-e-GOV法令検索
建設業法は2020年10月に改正されています。
改正前の契約書を使用している方は、改正後の建設業法に対応しているか確認してください。
請負契約の方式
建設工事の請負契約には、以下3つの方式があります。
- 建設工事請負基本契約(または建設工事請負基本約款)+注文書+請書」のセットで締結する方式
- 「建設工事請負契約」のみで締結する方式
- 「注文書+請書」のみで締結する方式
建設工事請負基本契約(または建設工事請負基本約款)+注文書+請書」のセットで締結する方式
基本的な決まりを「建設工事請負基本契約」で定め、細かい事項については個別で取り決める方式です。
詳細について別途取りまとめるため、継続的な契約に向いています。
元請け業者が請け負う一式工事、1次下請業者が請負ような1案件あたりの規模や金額が大きい工事に用いられます。
「建設工事請負契約」のみで締結する方式
工事ごとに詳細事項まで「建設工事請負契約」に記載する方法です。
都度詳細まで記載するため、単発契約に向いています。
「注文書+請書」のみで締結する方式
「建設工事請負契約」を「注文書+請書」で代替する方法です。
必要事項が記載されていれば、書類のタイトルが「契約書」の必要はありません。
注文書を提出し、下請業者から受書が提出されれば契約は成立します。
工事下請基本契約書の印紙代
工事下請基本契約書を作成すると、契約金額ごとに印紙代がかかります。
契約金額 | 本則税率 | 軽減税率 |
---|---|---|
1万円未満のもの | 非課税 | – |
1万円以上 100万円以下のもの | 200円 | – |
100万円を超え 200万円以下のもの | 400円 | 200円 |
200万円を超え 300万円以下のもの | 1,000円 | 500円 |
300万円を超え 500万円以下のもの | 2,000円 | 1千円 |
500万円を超え 1,000万円以下のもの | 1万円 | 5千円 |
1,000万円を超え 5,000万円以下のもの | 2万円 | 1万円 |
5,000万円を超え 1億円以下のもの | 6万円 | 3万円 |
1億円を超え 5億円以下のもの | 10万円 | 6万円 |
5億円を超え 10億円以下のもの | 20万円 | 16万円 |
10億円を超え 50億円以下のもの | 40万円 | 32万円 |
50億円を超えるもの | 60万円 | 48万円 |
契約金額の記載のないもの | 200円 | – |
軽減税率の適用が受けられる契約は、2014年(平成26年)4月1日から2024年(令和6年)3月31日の期間に作成されるものです。
工事下請基本契約書を作るならテンプレート・雛形をアレンジ
工事下請基本契約書は記載項目が明確に決まっており、抜け漏れのない書面作成が求められます。
そのため、自社で1から作るとなると法務部での確認が欠かせません。
しかし、特別法務部を設けておらず法的な専門知識がないという方もいるはずです。
その場合は、以下のようなサイトを利用して工事下請基本契約書のテンプレートや雛形を利用しましょう。
【無料・エクセル版】ハタコン書式集
ハタコン書式集では、工事下請基本契約書の書式を無料でダウンロードできます。
エクセル版のためダウンロード後すぐにアレンジし、自社の契約書として使い始めらます。
ハタコン書式集では建築業に特化したテンプレートを多数公開しているため、不足している契約書等があれば、ぜひ活用してみてください。
【有料】全国建設業協会
全国建設業協会では、有料ではありますが工事下請基本契約書の書式を販売しています。
1部180円から販売されており、令和2年4月に改正されているため、内容も最新のものへ更新されています。
日本の建設業界を牽引する団体である「全国建設業協会」の下請基本契約書は内容の信ぴょう性も高く、今後自社で契約書を作成する際の参考になるため、1部購入しても良いでしょう。
工事下請基本契約についてのよくある質問
工事下請基本契約について、よくある質問をまとめました。
まとめ
本記事では、工事下請基本契約の概要、記載すべき事項、必要な印紙代について解説しました。
下請業者は、注文者より力関係が弱いことが多いです。
そのため法律で規定された事項が記された契約書を交わして、下請業者を守る必要があります。
契約は口頭でも成立しますが、トラブルが起きると下請業者は責任を擦り付けられることが多いです。
そのため必ず契約書を交わし、トラブルが起きても責任の所在を明確にするなどの対策をおこなってください。