建設業は紙資料が多く、ペーパーレスが進みにくい業界です。しかしペーパーレスは、コスト削減や業務効率アップに有効な手段です。
この記事では、建設業がどのようにペーパーレスに取り組むべきかを解説します。
目次
ペーパーレスが進まない建設業の現状
ペーパーレスは、紙を使わない、少なくするという意味です。
現在、さまざまな企業がペーパーレスを促進し、その活動は当たり前となりました。ところが、建設業は他業種と比べると圧倒的に紙資料が多く、ペーパーレスが進みにくいことが問題となっています。
なぜ、建設業はペーパーレスの波に乗り遅れてしまっているのでしょうか。建設業特有の問題に注目して説明します。
- 建設業特有のピラミッド構造
- 現場の分だけ紙資料が増加
- 何度も書きかえられる図面
建設業特有のピラミッド構造
建設業はスーパーゼネコンや大手ゼネコンなど元請け会社を1次とし、下請け会社が2次3次と続くピラミッド型の業界構造です。
それぞれの階層間、会社間で見積書・契約書など、書類のやりとりが頻繁に必要となります。
書類が紙原本で必要という考えやハンコ文化が根強く残る現状もあり、紙資料が多い問題につながっています。
現場の分だけ紙資料が増加
建設現場には図面・工程表などをはじめ、さまざまな種類の紙資料があります。
もちろん現場が複数あれば、その現場に合った、図面や工程表などが必要です。たくさん建設現場があれば、それだけ紙資料が発生することとなります。
現場監督が複数現場を掛け持ちする場合は、現場ごとの紙資料を持ち運びなければなりません。
何度も書きかえられる図面
図面は、建設業に欠かせない紙資料のひとつですが、紙の消費量を増大させます。最初の1枚で終わることなく、何回も図面を書きかえるためです。
打ち合わせで出た修正点や変更点など、トレーシングペーパーを使って書き込み、再印刷しなければなりません。普通より大きいサイズの紙を使用することも多く、持ち運びも一苦労です。
また、図面を紙と鉛筆で書くという苦労でさえも、慣れた作業を変えたくないという現場の意見もあることがペーパーレスを加速できない一因であると考えられます。
建設業がペーパーレスに取り組むべき理由
ペーパーレスに取り組むとどのような結果を期待できるか、下記に焦点あて説明します。
- コスト削減
- 業務効率アップ
- セキュリティ強化
- コミュニケーションの向上
- オフィスの整理整頓
コスト削減
ペーパーレスは、コスト削減につながります。今まで使っていた紙資料が無くなり、紙代やプリンターのインク代などが一気に減少するためです。
印刷代は、プリンターかプリンター複合機(FAXやスキャン機能などがつく)、モノクロかカラーによっても金額が違います。
プリンターを導入した後で発生する管理費、インクやトナー、印刷用紙といったランニングコストを考えると紙資料が多ければ多いほど、当然その費用は大きくなります。
プリンターメーカーのRICOHが、A4普通紙に片面連続印刷した場合の1枚あたりの料金(ランニングコスト)を算出しています。
機種にもよりますが、モノクロレーザープリンターで1.9~4.0円、モノクロプリンター複合機で約3.8~4.0円かかるとしています。(参考:RICOH よくあるご質問-FAQ-)
また印刷した資料の重要性によっては、きちんと保管しなければなりません。膨大な紙資料は、当然スペースもとり、社外に倉庫を借りて書類保管している企業は、その分のコストも削減できます。
業務効率アップ
業務効率アップは、ペーパーレスによる大きな利点のひとつといえます。
書類をデジタル化することで、さまざまな手間が省け作業時間短縮が可能となります。
建設業に携わる全ての企業は、2024年4月1日に施行となる働き方改革関連法(改正労働基準法)に対応しなければなりません。
この法令は、時間外労働の上限規定があるため、紙資料による非効率的な現状があれば見直し、労働時間を短縮できるようにする必要があります。
セキュリティ強化
膨大な紙資料を持ち運ぶ場合、紛失などによる情報漏洩のリスクがあります。
デジタル化してしまえば、記録が取れる場合が多いですが、紙資料になると閲覧しやすく、コピーして持ち出すこともできます。
デジタル管理した資料は、社員の役割によって閲覧権限を設けることができるため、セキュリティ強化をはかれます。
コミュニケーションの向上
紙資料は、社内外の情報共有に時間がかかります。デジタル化でペーパーレスを進めれば、必要な情報を社内外でいち早く共有できます。
担当営業のみ顧客の詳細を知っており、担当に聞かないとわからない、お客様からの急な問い合わせに対応できないなどの心配がなくなります。
このようにデジタル化することで社内外のコミュニケーションが円滑になることも利点のひとつです。
オフィスの整理整頓
会社のデスクはファイルと紙資料で埋もれている。そのような職場環境がペーパーレスできれいなオフィスに生まれ変わります。
片付いたオフィスは、必要なものの位置が一目でわかり、結果的に生産性を向上させることにつながります。
ペーパーレス実現のための具体策
ペーパーレス実現のためには、当然具体的な取り組みが必要です。
建設業に携わる企業が実践できることを下記に注目して解説します。
- 業務を精査
- 電子商取引の活用
- 業務管理システムの導入
- 建設業に特化したアプリを活用
業務を精査
まずは、自分たちの業務の中で必要なものを精査してください。不必要だと判断されるものは、削減していけば、自然とペーパーレスにつながります。
いくらペーパーレスが業務効率をアップさせるとわかっていても、いきなり全てをデジタルにするのは無謀です。
とりわけ、建設業は長いこと紙資料に頼ってきた業界です。デジタル化自体に慣れていない業務を一気に変えてしまうと、社員も戸惑いかえって業務効率が悪くなる危険性があります。
業務上使用頻度の高い資料はデジタル化する、頻度のそれほど高くないものは紙資料にするなど併用し、徐々にデジタルに移行することをおすすめします。
電子商取引の活用
建設業特有のピラミッド構造から、それぞれの会社間で見積りや契約書が発生します。
この契約関係の書類は電子商取引(CI-NET:Construction Industry NETwork)を活用すると大幅なコスト削減と業務効率アップが可能となります。
電子商取引とは、契約に関わる書類を紙でやりとりするのではなく、ネットワークを利用して電子データとして扱う仕組みのことです。
この仕組みは国土交通省が建設業の生産性を向上させ、企業間の取引を適正化することなどを目的に始めました。
電子商取引は、見積依頼や回答、契約から出来高報告、請求など色々なやりとりが可能です。
電子商取引に切り替えるには、対応できる情報システムの導入やASP(Application Service Provider)からのサービス利用(ネットワーク経由でソフトを利用)が必要です。
業務管理システムの導入
ペーパーレスを実現する方法のひとつは、業務管理システムの導入です。顧客との契約から建設現場の工程表管理など、業務を一元管理できるシステムがあります。
データはクラウド管理されるため、どこにいてもスマホやタブレットで必要な資料を確認できます。
建設業に特化したアプリを活用
建設業の業務に特化したアプリを使用することもおすすめです。
例えば、工事現場の写真撮影や工事黒板をまとめたアプリや計測のためのアプリ、図面に特化したアプリなど建設業で使えるさまざまなアプリがあります。
このようなアプリを利用すれば、デジタルで管理できるためペーパーレスが可能となります。
住宅引き渡し後のメンテナンスや修繕工事などアフター管理に優れたアプリもあります。
修繕工事は住宅完成後に定期的に行う工事ですが、時期が数年、数十年後と長くかかるため、担当の工務店や顧客とのコミュニケーションツールがあるほうが、忘れず管理できて便利です。
まとめ
建設業は、ペーパーレスが進みにくい業界です。
建設業特有のピラミッド構造や紙資料を扱う習慣を変えることは大変ですが、最初は電子データと紙資料を併用して徐々に慣れていくのがおすすめです。
2024年には働き方改革関連法(改正労働基準法)が施行になり、時間外労働に規制がかかります。
法改正に対応できるように、業務効率を向上させることは必須で、ペーパーレスは大きな解決策となります。
システムやアプリもうまく活用し、より働きやすい環境をペーパーレスで目指しましょう。