近年はコンプライアンス遵守が叫ばれ、これまで通用していた値引き要求が使えなくなっています。
建設業でよく使われる値引きとして「出精値引き」があります。
業務上で出精値引きを使っていても、具体的な意味をよく理解していないという方も多いのではないでしょうか。
この記事では、出精値引きの基本情報や正しい使い方、過度な値下げ要求の対策について解説します。
目次
出精値引きとは
「出精値引き」と普段の業務で使っている方でも、どのような意味なのか正確に答えられる方は少ないのではないでしょうか。
はじめに出精値引きについて理解するため、以下の2つを解説します。
出精値引きの定義
出精値引きとは、見積書を提出する会社の企業努力による値引きのことです。
以下のような値引きは出精値引きに該当します。
- 端数を丸める値引き
- 原価や見積り条件に関係のない値引き
出精値引きは取引先の要望によって実施されるものではなく、あくまでも下請会社が自発的におこなうものです。
したがって取引先の要求によっておこなう値引きは、どのような形であっても出精値引きとは言えません。
出精値引きの目的
出精値引きおこなう目的は以下の2つです。
- 案件受注のため
- 取引先と信頼関係を築くため
つまり「頑張って値引きしたので、良い関係を築きましょう」とアピールする目的で、出精値引きは使われます。
ただ大幅な出精値引きは「初めからその価格で提示できなかったの?」と疑問を持たれる可能性があり、取引先の信頼を失う可能性があるため注意が必要です。
また建設業界は競合他社が多く、初めから採算ラインギリギリの価格で提示するケースが一般的です。
そのため無理な出精値引きは自社の利益を圧迫し、赤字になってしまう場合もあります。
そのような価格で受注ができても、サービスの質が下がってしまう、最悪の場合事業が継続できなくなるといった問題が起こるでしょう。
出精値引きは取引先との関係を良好にし、事業を継続的におこなうために実施するものです。
したがって無理な出精値引きで、自社が疲弊しないよう注意しましょう。
他の値引きとの違い
出精値引きと他の値引きをどのように違うのか、と疑問に持つ方もいるのではないでしょうか。
ここでは「通常の値引き」と「期間限定値引き」を例に出して解説します。
一般的な値引きは「施工ミス」や「納期に間に合わない」など、何らかの理由によっておこなわれるのが一般的です。
期間限定値引きとは、決算期直前値引きをはじめとした一定期間だけの値引きを意味します。
期間限定値引きは、決算期直前で目標に売上や利益が到達していないときに実施されます。
したがって一定期間が過ぎると、値引きがなくなり定価に戻るのが特徴です。
出精値引きの記載方法と注意点
出精値引きの使い方が合っているのか、表記の方法が間違っていないが気になる方も多いでしょう。
ここでは値引きの記載方法と注意点の観点から以下の3つについて解説します。
「▲」や「−」の記号の使用する
出精値引きを使用するときは「▲」または「-」を値引き額の前につけましょう。
1万円の出精値引きの場合は下記のように表記します。
「▲」や「-」を使用して出精値引きを明示すると、取引先に誤解されることがなくなります。
もし上記2つ以外の記号を使っている場合は、社内ルールの検討を変更してください。
クライアントによっては、使われている記号の意味がわからず、出精値引きの意図が伝わらない可能性があるためです。
値引きの理由を明確にする
取引先によっては値引きの理由を求めてくるケースもあります。
そのため見積書に、以下のような値引き理由を記載しておくのがおすすめです。
- 出精値引き
- 貴社特別値引き
見積書に理由を記載せず、かつ値下げの理由を取引先に答えられないと「適当に値引きしている」「お願いすれば値引きしてもらえる」と思われかねません。
値引きの理由を明確にすることは、取引先に出生値引きの意図が伝わるだけでなく、自社を守るためにも重要です。
値引き前の金額も記載する
出精値引きの際は、必ず値引き前の金額も記載しましょう。
値引き前の金額がないと、本当に値引きされているかわからず、取引先に不信感を与える可能性があるためです。
また値引き前の金額があれば、値引きしたことが記録として残るため、案件の関係者以外も取引の流れを振り返りやすくなります。
また値引き前と値引きの金額があれば、計算が間違っていないかの確認もできるため、出精値引きをおこなう際は必ず2つの金額を記載しましょう。
出精値引きと法律違反のリスク
出精値引きはあくまで下請業者が自主的におこなう値引きです。
そのため出精値引きの要求は、法律違反の可能性があります。
ここでは出精値引きの要求が、2つの法律違反に該当する可能性について解説します。
不正競争防止法違反の可能性
過当な値引きの要求は、不正競争防止法に違反する可能性があります。
市場価格を著しく超えた値引きの要求は、価格破壊行為とみなされる場合があるため注意が必要です。
この金額まで値引きをしてほしいと希望があっても、市場価格から外れていないか、値引きを依頼できる理由があるかを考えるべきです。
下請法違反の可能性
また値引きの要求は下請法違反の可能性も考えられます。
下請法とは、立場の弱い下請業者を守るための法律です。
この法律は、基本的に強い立場にある親業者が、有利な力関係を利用して下請業者に不当な要求をおこなうことを禁止しています。
公正取引委員会によると発注後、下請業者に落ち度がないにもかかわらず工事代金や仕入れ代金を減額することは認められていません。
仮に協賛金や歩引きなどの名目で、発注後に代金の金額をする合意があったとしても下請法違反と認定されるため注意が必要です。
【参考】下請代金支払遅延等防止法ガイドブック-公正取引委員会
また下請法では親業者による買いたたきも禁止されています。
買いたたきとは、親会社が有利な立場を利用して市場価格に逸脱した低い価格を下請業者に押し付けることです。
買いたたきは、下請業者の利益を減らし経営を圧迫する原因となります。
継続的な関係を続けるためにも、買いたたきはおこなわず適正料金で依頼するようにしましょう。
過剰な値引き要求への対応策
普段は元請業者である工務店も過剰値引きを要求されるケースがあります。
たとえばハウスメーカーやゼネコンの下請になる場合です。
過剰な値引きの要求を受けた場合は、どのように対処すれば良いのでしょうか。
ここでは、過剰な値引きの対応策として以下の3つを解説します。
値引き要求の根拠を理解する
はじめになぜ元請会社や親会社が、値引きの要求をしているのか根拠を理解しましょう。
なぜなら根拠によって今後の対応が大きく異なるためです。
値引きの根拠に以下のようなものがあります。
- 他社の見積り金額より高いので値下げしてほしい
- 想定していた原価より高いため下げしてほしい
- 根拠はないが値下げしてほしい
「他社より見積り金額が高く値下げしてほしい」と言われた場合、発注が確約されるならば値引きしても良いと考える会社は多いでしょう。
ただ値引きしても発注が確約されないのであれば、安易に値引きに応じるのは避けるべきです。
自社の値引きした金額を当て馬にされる可能性が高いためです。
「想定していた原価よりも見積り金額が高いため値下げしてほしい」と、言われる場合もあるでしょう。
協力したい気持ちあったとしても、安易に値引きするのは考えものです。
「値引きお願いすれば簡単に応じてくれる業者」だと思われると、今後適正価格で受注できなくなる可能性があるためです。
値下げに応じられない場合は「口述する金額の理由を説明する」または、「値引きできる方法を考える」と良いでしょう。
金額の理由を説明する
またこれ以上無理な金額の値引きを要求された場合は、提示している金額の理由を説明しましょう。
- 通常とは違う高い材料を使っている
- 施工が大変なので人工代がかかる
- 複雑な加工なので加工代が高くなっている
- 納期が短く社員に残業させている
上記のような値引きの理由を説明しても納得してくれない場合は、次に解説する値引きできる方法を考えてみましょう。
値引きできる方法を考える
最後に値引きできる方法を考えましょう。
安易な値引きは一時的には良いですが、自社の利益がなくなるためあまり好ましいものではありません。
値引きをする場合は、こちらの原価を下げる提案をおこない、利益率が下がらないようにするのがおすすめです。
価格を下げつつ品質担保する提案をVE提案と言います。
質を維持したまま価格を下げる方法には以下のようなものがあります。
- 施工方法を簡単なものに変更して施工費を下げる
- 納期を伸ばし外注費や残業代を削減する
- 同じタイプの安い材料に変更する
このような提案が通るのであれば原価が減少するため、利益率を下げることなく値引きができます。
「受注したいが利益率は下げたくない」「取引先の要望に応えたい」と考える場合、値引き要求された際にはVE提案を実践してみてください。
まとめ
出精値引きとは取引先の要求に関係なく、下請業者が自発的におこなう値引きのことです。
取引の際の要求によっておこなう値引きは、出精値引きではないためしっかりと区別しておきましょう。
出精値引きを記載する際は、値引き額の前に「▲」「-」を記載して、値引きをしていることを明確にするのが大切です。
また過度な値引きを求められた際は、以下3つの対策をおこないましょう。
- 値引き要求の根拠を理解する
- 金額の理由を説明する
- 値引きできる方法を考える
無理な値下げ要求は法律違反になってしまうケースもあるため、注意が必要です。
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