ARとは現実世界に情報をプラスし、利便性の高い生活を実現する技術です。
完全な仮想空間を作り出すVRとは異なります。
建築業界ではARの活用により「業務の見える化」や「多角的な確認・検討」を実現できるでしょう。
今回は、ARの概要や種類、建築業界での事例集について解説します。
目次
ARとは?VRとの違い
ARとは、「Augmented Reality」の頭文字を取ったもので「拡張現実」という意味です。現実をベースに、画像・映像とCGを組み合わせた空間を作り出すことができます。言い換えるなら現実に新たな情報を追加することで、より便利な生活を実現します。
例えば、GoogleMapの「AR案内機能」では、スマートフォンのカメラから風景を見ると、目的地までのルートを矢印で示してくれます。他にも、夜空にスマートフォンをかざすだけで見える星座を表示するという技術もあります。
よく混同されるVRとの違いは、ベースとする現実世界があるか無いかです。
VRは「Virtual Reality」の頭文字を取ったもので「仮想現実」という意味です。まったくのゼロから仮想の世界を作り上げます。例えばPlayStation®4では、専用VR・ヘッドセット装着することでゲームの世界に飛び込んだようにプレイできます。
つまり、現実に情報をプラスするのがARで、何も無い空間に情報を作り上げるのがVRといえるでしょう。
ARの種類・利用シーン
ARには大きく3種類に分けられます。それぞれの特徴を以下の表にまとめました。
ロケーションベースAR | ビジョンベースAR (マーカー型) | ビジョンベースAR (マーカーレス型) | |
---|---|---|---|
利用する技術 | 位置情報 | マーカー認識 | 物体認識 |
特徴 | 設定された場所に向かうと、コンテンツを表示 | マーカー (写真・画像など)を認識するとコンテンツを表示 | 物体(立体物)を認識するとコンテンツを表示 |
利用シーン | ・道案内サービス ・観光地案内 ・移動型ゲームアプリ など | ・リアルイベント ・画像投稿SNS ・商品・パッケージ など | ・商品・パッケージ ・製造・機械などの産業分野 など |
注意点 | GPS精度の影響を受ける | マーカーを設置しなければならない | 物体を認識する精度の影響を受ける |
3つはARコンテンツを表示するきっかけとなる、認識の対象が異なります。ロケーションベースは「位置情報」、ビジョンベースAR(マーカー型)は「写真・画像」、ビジョンベースAR(マーカーレス型)は「立体物」を対象とします。
利用シーンはそれぞれの技術によりますが、普段から私たちが触れているサービスも多いのではないでしょうか。また、注意点として認識させるための技術的精度や、対象物の設置などがハードルにもなるでしょう。
【建築】AR活用のメリット
AR技術を建築業界に導入すると、現場の情報共有を簡単におこなえます。加えて、設計段階から多角的な検査を行い、BIMでわかりやすく検討することも可能です。
以下で詳しく解説します。
- 業務の見える化
- 多角的な確認・検討
- BIM情報の利用
業務の見える化
建築現場では、目標と課題の見える化に役立ちます。
建設途中の現場に、完成するまでの工程を投写すると「どれくらい目標とのギャップがあるか」を目で確認できます。
自ずと課題も見えてくるため、今後のスケジュールも立てやすいでしょう。
しかもこれらの情報は施工管理者と作業員で共有できるため、同じ目標意識をもって業務に励めます。モチベーションアップにもつながります。
さらには、常に現場の状況を把握し合えるため、業務効率も高めてくれるでしょう。
多角的な確認・検討
設計段階での想定と、完成した建築物が違っては施主からのクレームにもつながりかねません。従来、紙面・図面・模型だけで完成像をイメージし、確認・検討せざるを得ませんでした。
しかしAR技術の活用により、実際の現場に完成像を投写することで、より多角的な確認・検討をすることができます。
従来のやり方ではイメージの難しかった建物内部からの景観も取り入れやすいでしょう。
計画通りの建築物を立てることに役立ちます。
BIM情報の利用
設計段階からでBIM情報を利用できます。
BIMとは、建築物の立体モデルをコンピューターで作り出す技術のことです。資材・設備などのパーツを実物大で表示できます。また立体モデル以外にも、工程・時間軸・コストなどの情報を盛り込み、完成するまでの流れをよりイメージしやすくできるでしょう。
3DCADは「2次元の図面を作製してから3次元の形にする」という流れがあり、変更する場合は「必ず2次元を変更してから3次元に反映させる」という手間がかかりました。一方のBIMは「最初から3次元で作製する」ため、変更もスムーズに行えます。
このBIM情報のおかげで施工時だけでなく保守点検時も役立つでしょう。
AR導入事例集
AR技術を導入した事例について、以下で紹介します。
以下で詳しく解説します。
- LESSAR|株式会社ライフ
- AceReal Assist|サン電子株式会社
- Floor Doctor ver.2|株式会社イクシス
- WARP HOME|株式会社ジブンハウス
LESSAR|株式会社ライフ
LESSARは分譲地で、実物大の住宅を3DARコンテンツとして表示させることのできるツールです。これまでは平面の図面、2アングルでの画像でしか見せられず、顧客自身がイメージしなければなりませんでした。
しかし、3DARコンテンツとして立体的・360度の住宅を見せることで、よりわかりやすくイメージしてもらうことに成功しました。スペースに応じて縮小拡大や回転もできるため、細かな調整も可能となっています。
【参考】LESSAR
AceReal Assist|サン電子株式会社
AceReal Assistは建築現場の管理や保守点検といった業務を遠隔地からサポートできるツールです。スマートグラスのカメラ映像から撮影した現場の画像に矢印・指示を表示させたり、スマートグラスの画面に必要な資料を表示させたりといった機能を使えます。これらの情報は必要な情報だけ、必要なタイミングで表示させられます。わざわざ現場に赴かなくとも、適切なコミュニケーションを図ることができるでしょう。
また建築業界の「人材育成の機会不足」という課題に対しても、熟練層がサポートすることで効率的な育成を行えます。
【参考】AceRea
Floor Doctor ver.2|株式会社イクシス
乾燥でコンクリートの床面がひび割れ、引き渡し時あるいは保守点検時に、補修の必要なるケースがあるでしょう。床の面積が広くなるほど、作業にはより時間・労力がかかります。また作業者の技術次第で、撮影品質・撮影漏れなどにバラつきが生じることも。
Floor Doctorは、こういったひび割れを検査するAIロボットシリーズです。2020年にはAR機能を搭載した試作機を開発しました。
ロボットを移動させ、撮影をするとAI解析で0.1ミリ単位のひび割れを検出します。さらにver.2では、AR機能の導入でロボット自身が位置を推定し、点検済みのエリアを把握しやすく、データの取り損ねも無くなりました。
【参考】iXs
WARP HOME|株式会社ジブンハウス
工務店営業プレゼンツール「WARP HOME」は、AR技術を活用し、実際の分譲地でデバイスをかざすことでモデルハウスを出現させます。部屋への入室、部屋間の移動、窓からの景色などを擬似体験できます。ちなみにVR技術を駆使して、店舗にいながらバーチャル内覧も可能です。
顧客により具体的な住宅イメージを共有でき、修正作業を減らしたり、コストダウンにもつなげられるでしょう。
【参考】WARP HOME
まとめ
ARの導入により建築業界は効率化を図ったり、トラブルを防いだりすることが可能です。自社に導入できる技術を採用しながら、業務改善を目指してはどうでしょうか。