個別原価計算とは、個別の工事現場ごとに原価を計算する手法です。
建設業を営む企業にとっては建設業許可の更新などにも影響するため、正確に原価管理をおこなう必要があるといえます。
今回は個別原価計算に関して概要からメリット、計算方法まで詳しく解説します。
工事現場での原価管理を正確におこないたいと考えている経理担当者の方は参考にしてください。
個別原価計算とは?
建設業における工事原価の管理には難解な専門用語も多いため、経理業務の中でも非常に難しい作業の1つです。この工事原価を計算する際に難しい要素の1つとして「個別原価計算」という計算方法があります。
個別原価計算とは、個別の工事現場ごとに原価を計算する手法です。
製造業の場合、同じ工場内でさまざまな種類の製品を生産します。製品が大量に生産されるため、電気代、機械設備代、労務費などを全ての製品に割り当てることは物理的に困難です。
そこで工業製品の場合は「総合原価計算」として会計を処理します。
しかし工事現場では、それぞれの工事で別々の工事請負契約をおこなうため、図面や仕様書が異なります。工事現場ごとに原価を確定させて損益を決定させる必要があります。
こういった事情から工事現場では個別原価計算を使い、工事原価を管理しているのです。
個別原価計算と総合原価計算の違い
個別原価計算と総合原価計算は簡単にいうと以下のように定義できます。
- 個別原価計算:製品やサービスごとに原価を計算する手法
- 総合原価計算:一定期間に発生した原価をまとめて計算する手法
個別原価計算はその名の通り個別の製品やサービスの原価を計算していく手法なのに対し、総合原価計算は一定期間に発生した原価をひとまとめにして計算する手法です。
個別原価計算と総合原価計算をどう使い分けるかは業種によって異なります。
例えば一つ一つの製品違うものを生産するような特注の機械、特注の建設資材部品など、受注してから生産をおこなうようなタイプの製造業では個別原価計算を使います。
建設業も工事現場ごとに内容や条件が変わってくるため、個別原価計算で原価管理をする業種の1つです。
一方で総合原価計算は、同一の製品を反復して大量に生産するような業態で使われる手法です。業種としては製紙業や鉄鋼業などが該当します。
また、計算方法も異なっており、個別原価計算では直接的と間接費に分けて原価を算出します。対して総合原価計算では、材料費と加工費に分けて原価を算出していき、直接的と間接費を区別しません。
個別原価計算を用いるメリット
一般的に個別原価計算を用いるメリットは、個別の製品やサービスの原価を正確に算出し把握できることです。
個々の製品やサービスの原価を正確に算出することで、どういったものにコストがかかっているかが分かりやすくなり、不要なコスト削減など利益追求の点においても大きなメリットがあります。
建設業の場合でも、工事ごとの収支を明確にすることができるため、不要なコストを削減するなど工事の生産性の改善に役立てることができるでしょう
また建設業においては、類似した工事の見積もりを作る際の参考データが作成できる点がメリットとなります。
参考データ作成するために個別原価計算をおこなう場合には、材料費、労務費、外注費、現場経費の工事原価で大きな割合を占める4つの項目を工種ごとに比較することで、「何にどれだけ費やしているか」を明確にすることが重要です。
個別原価計算の計算方法
基本的には原価を製品やサービスごとに振り分けるだけで、考え方としてはわかりやすいです。
しかし、製品やサービスに関するデータを正確にとり、なおかつ一定の基準をもとに費用を割り振っていく必要があるため、計算には十分に注意すべきです。
個別原価計算では以下のステップで計算をおこないますが、ここでは建設業を例に挙げて個別原価計算のステップを紹介します。
費目別に原価を分類する
まず発生した原価を材料費、外注費、労務費、経費のように費目別に分類します。
費用別に分別したら、それぞれをさらに工事直接費と工事間接費に分類をします。
最後に、工事間接費を各工事の原価に対して割り当てます。
ちなみに工事間接費は割り当ての基準を設けられており、以下の3つが存在します。
- 一括配賦法:費目に関係なく一括で割り当てる
- グループ配賦法:類似している原価をグループ化して割り当てる
- 費目別配賦法:費目ごとに割り当てる
割り当てる方法も以下の2種類があります。
- 予定配賦法:あらかじめ割り当てる額を決め、後から修正する方法
- 実際配賦法:実際に発生した額から割り当てる方法
工事の条件や内容によって工事間接費が変わってくるため、それぞれの工事現場に合わせた適切な割り当て方法を選択してください。
工事別に原価を振り分ける
費目別に原価を分類し終えたら、続いて工事別に原価を振り分けます。
具体的には、先程分類した工事直接費を個別の工事ごとに集計する作業が必要です。先に工事間接費の割り当ては終わっているため、この作業で個別の工事ごとに原価を算出することができます。
個別の工事については、工事台帳を使って管理している企業もあるはずです。出面帳などで手作業の管理をおこなっている場合には、労務管理システムなどを連携させる必要があります。
また、こうした原価計算には専用のシステムを使った方が効率的に業務を進めることができます。工事原価管理の方法や管理システムの選び方について、以下の記事で解説しています。
まとめ
建設業では個別原価計算を用いることにより、各工事ごとの原価を算出することができます。
工事ごとの原価が分かれば、適切にコスト管理をおこなうことができ、工事ごとの利益を増やすための手助けとなるでしょう。
また個別原価計算では工事ごとにどういった費用や労務費がかかっているのかを正確に把握することが重要です。
特に材料費や外注費などは管理をしやすいですが、労務費に関しては作業員がどれだけ時間をかけたのかを細かく管理することが必要になるため、不明確になりがちなので注意が必要です。
こういった工事原価を正確に把握するためには、人の手で管理するよりもシステムを使って管理したほうが管理しやすいはずです。
個別原価計算を正確におこなっていくためにもシステムを活用することをおすすめします。