建設産業・建築業界の喫緊の課題としてあげられている生産性の向上ですが、一言で生産性といってもイマイチわからない方もいるかもしれません。
生産性の中にもいくつかの種類があるため、生産性向上を試みたり生産性について考えたりするには、「どの意味合いでの生産性を軸とするのか」をまず考える必要があります。
今回は建設産業における生産性について、以下の3点を中心に、他産業と比べた際の建設産業の生産性や生産性向上を阻害する建設産業ならではの要因を解説します。
目次
生産性とは
生産性とは簡単にいうと、「どれだけ効率的に生産できたか」または「少ないインプットでどれだけ多くアウトプットできるか」を表す言葉です。
ただし生産性にはいくつかの捉え方があるため、まずは代表的な生産性の捉え方である「物的生産性」と「付加価値生産性」について確認しておきましょう。
またさらに理解を深めるために、そのほかの捉え方についてもご紹介します。
物的生産性
物的生産性とは、投じた労力に対してどれだけの生産量を産出できたかを表す生産性です。
生産量に基づいた生産性の考え方であり、以下のように計算できます。
付加価値生産性
付加価値生産性とは、投じた労力に対してどれだけの付加価値を創出できたかを表す生産性です。
付加価値額に基づいた生産性の考え方であり、以下のように計算できます。
付加価値生産性 = 付加価値額 / (労働者数 × 労働時間)
その他の生産性の捉え方
物的生産性と付加価値生産性が生産性の主な捉え方ですが、いずれの捉え方を採用する際も人や時間など身近な単位で考えることで生産性への理解を深められます。
生産性の向上に取り組む際は以下のような計算も取り入れ、さまざまな観点から現状の生産性を把握するように努めましょう。
1人あたりの生産性 = 生産量または付加価値額 / 労働者数
1時間あたりの生産性 = 生産量または付加価値額 / (労働者数 × 労働時間)
建設産業における生産性
生産性は近年の建設産業におけるキーワードとなっていますが、生産性について考える際は「どのような意味合いで生産性を捉えているか」をしっかり定義・共有し、客観的に計測・分析することが重要です。
どのように生産性を捉えるべきか、そして建設産業における生産性の現状について客観的に把握するため、ここでは以下2点について解説します。
建設産業における生産性の考え方
建設産業における生産性を考える際は、付加価値生産性に基づいて考えるとわかりやすいといえます。
理由としては、付加価値は粗利益に置き換えて考えられるためです。
建設業界における粗利益とは「完成工事高から完成工事原価を差し引いたもの」ですが、経営上の目標値、または案件ごとの目標値として設定されることもある数値のため、客観的な計算を行うことができるでしょう。
労働者数と労働時間も計測可能な数値のため、付加価値生産性に基づくことで身近な指標を用いて生産性について考えることができます。
生産性から見た建設産業の位置づけ
生産性向上が喫緊の課題とされている建設産業ですが、実は他産業と比べてそこまで生産性が低いわけではありません。
上の図に見られるように、経済産業省の調べによると全産業平均と同等または少し高い位置づけにあるといえます。
ただし、同資料は日本自体の生産性についてOECD加盟国35ヵ国中21位である点にも言及しており、もともと生産性の低い日本で平均程度の生産性があるといって喜んではいられません。
また建設産業は「人手不足」「高齢化」「労働環境への負のイメージ」などの課題を抱えており、これらの解決の糸口として生産性の向上が求められているという背景もあります。
生産性から見た建設産業の位置づけは、日本においては平均もしくは平均以上であるものの、生産性向上を急がなければならない状況に変わりはないといえるでしょう。
建設産業における生産性の向上
建設産業は他産業と比べて生産性が低いわけではありませんが、決して高いともいえず生産性向上が求められている点も事実として受け入れなければなりません。
一方で建設産業が持つ特性によって生産性の向上が困難になっている、阻害されている点も事実として捉えておく必要があるといえるでしょう。
最後に建設産業における生産性の向上について、以下2点を解説します。
建設産業で生産性向上が難しい理由
実は、建設産業は各産業の中でも特に生産性を向上させることが困難な産業です。
実際に公益財団法人 日本生産性本部の調べを見てみると、建設産業は2018年度と2019年度で続けて生産性上昇率がマイナスとなっていることがわかります。
【参考】公益財団法人 日本生産性本部 日本の労働生産性の動向 2020
同調べではこのマイナスについて、投入した労働力(就業者数や労働時間)の上昇率がプラスだった一方で、産出(売上高や契約高)の上昇率がマイナスだったことを要因としてあげていますが、建設産業には生産性向上を困難にする、または阻害する特性が根本的に存在すると考えられます。
建設産業の持つ以下2つの特性について詳しく見ていきましょう。
- 建設産業特有の状況
- 建設産業特有の生産体制
建設産業特有の状況
生産性向上を困難にしている要因の1つとして、「人手不足」や「高齢化」といった課題に直面している建設産業特有の状況があげられます。
人手不足が常に起こっている現場では、従業員が忙しく効率の低下を招いています。ICT導入など最新技術の知識が求められる生産性向上の方法では、年配者の多い組織ではハードルの高さを感じるかもしれません。
このような建設産業特有の状況が生産性向上を阻害しており、また生産性が向上できないことがさらに人手不足につながるといった負の連鎖を招く可能性も考えられます。
建設産業特有の生産体制
生産性向上を困難にしているもう1つの要因は、建設産業における生産体制の特徴です。
国土交通省はi-Constructionと称した建設産業の生産性向上の取り組みを行っていますが、その中で建設現場の特徴として以下の3つをあげています。
建設現場の特性
□一品受注生産
・異なる土地で、顧客の注文に基づき、一品ごと生産□現地屋外生産
・様々な地理的、地形条件の下で、日々変化する気象条件等に対処する必要がある□労働集約型生産
【引用】国土交通省 i-Construction ~建設現場の生産性革命~ 参考資料
・様々な材料、資機材、施工方法と専門工事会社を含めた様々な技能を持った多数の作業員が作り出す
建設産業においては、受注ごとに異なる条件のものを、地理地形の異なる土地で天候などに対処しながら、専門的な技能を持った多数の作業員で生産しなければなりません。
これにより自動化・機械化による効率的な大量生産が、そもそも困難な産業といえるでしょう。
建設産業における生産性向上の方法
生産性の向上が難しい建設産業ですが、もちろん不可能ではありません。
例えば以下のような方法が建設産業においても生産性向上に有効だと考えられています。
- 従業員の多能工化と管理
- ICTの導入
- 外部との連携
人手不足のまま生産性を向上させるためには、1人の従業員ができることを増やしたうえで適切な人員配置を行うことが求められます。
一方でドローンや業務効率化ソフトなどの活用によって負担の軽減と業務効率化を行うことも必要でしょう。
またそれでも対応が難しい場合は、アウトソーシングを活用したりM&Aによって労働力の統合を行ったりすることも状況に応じて必要となります。
建設産業の生産性を向上させることは容易ではありませんが、このような方法を用いることで解決に向かっていくことは不可能ではありません。
まとめ
今回は建設産業における生産性について解説しました。
建設産業においては付加価値生産性の観点から生産性について考えることがポイントとなりますが、建設産業が抱える課題や特有の生産体制などの理由により生産性向上は容易ではありません。
このためまずは生産性について現状の理解から始めてみることが重要といえますが、さまざまな業務が存在する建設産業においては一元的に業務を管理することであらゆる観点から生産性について考えられるようになります。
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物的生産性 = 生産量 / (労働者数 × 労働時間)